第6話 城下町 こわい人
朝食を食べてフロントでチェックアウトへ行くとフロントにはアカリの彼氏が
「ありがとうございます。
アカリの相手もしてもらって重ね重ねありがとうございます」
「いえ。
こちらこそごちそうさまでした。
アカリと話せて楽しかったですし。
だけどアカリって怖いですよね」
「そうですね」
二人で笑った。
朝の犬山の町を歩く。
今日は月曜日の朝。
会社の人達もアカリも休日の犬山城下は混雑がひどいと言っていた。
ここはあまり関係ないかも知れないが通勤ラッシュの時間帯も過ぎている。
今日はゆったり見られそうだ。
夕方までじっくり観光する時間はあるし想定よりだいぶ早く仕事を終えたんだ、もう一日くらい休みを取っても問題ない。
坂を登って犬山城へ向かう。
近道と案内のある城の前の神社の境内を登って行くと、赤い鳥居が連なるとこにピンクのハートの絵馬が掛けられていた。
映えというやつだな。
月曜日というのに若い人が多い。
そういうコンセプトでやっているようだ。
城下町など年配の方や歴史オタクや私のような暇な物好きが見るものだと思っていたがそういうわけではないらしい。
城の入り口に着いた。
窓口で犬山城の他に城下町の観光文化施設を見られるのを買った。
時間はある。
実は全国各地の観光地を回ってはいるのだが、ただ行ったというだけで大して観光はできていなかったと思う。
犬山城も記憶にある景色だ。
中は入ると当たり前かも知れないが以前来たときと特に変わったことはない。
最近まで個人の所有物だったことに驚いたのを思い出した。
急な階段を上がり、外回廊に出る。
いい景色だ。
川と山。
そしてダムが見える。
昨日渡った鉄橋や鵜飼いの乗り場。
改めて犬山の街は良いなと思った。
戦闘機が轟音を立てて飛んでいる。
近くに航空自衛隊基地がある。
自然と人工。
なんとも不思議な感じ、ファンタジーの世界のようだ。
城を降りて、からくり博物館に着いた。
犬山とからくり何か関係あるのかな。
入ろうと思うと14時からからくりの実演があると案内看板があった。
40分くらいあるので中でのんびり涼ませてさせてもらうことにした。
時間はある。
中に入ってからくりがなんなのかわかった。
祭りの屋台でからくり人形が演じられる。
そういえば送別会でそんなことを言っていたような。
正直あの時はあまり興味が無かったけど、以前使われていたからくりやその仕組みの展示は興味深い。
祭りでは13両の車山それぞれのからくりがあるようだ。
そしてその動きの解説が映像で流れている。
並べられた椅子に座ってじっくり見入ってしまう。
すると私よりも若そうな女性が一人、隣の席に座った。
二人で見入るが、私は彼女のことも気になってしまった。
ちょうど映像が終わった頃に、実演の時間が近づいてきて何人か入ってくる。
茶運び人形の解説が始まった。
実は以前テレビでその仕組みは知っており、そこまでの新鮮さは感じなかったが実物を見れたのは良かった。
解説が終わると隣の女性は詳しく解説の人に仕組みを聞いているようだった。
次に行こう。
これだから私は友達がいないんだ。
最後に少し離れたどんでん博物館へ向かう。
町を歩いていると古い町家の中にいかにも写真映えを狙った綺麗な建物も混在する。
見栄えして食べ歩きできるものを扱うお店も多い。
平日だというのに若い子達が多い。
浴衣も着ている子達もいて町並みとよく合っている。
柄にもなく私も着てみたいなと思ってしまった。
城下町なんて年配者ばかりかなと思っていたが、若者の方が多いくらいだ。
上手いなと。
カップルも多い。
あいつのことを思い出すが嫌な気はしなくなっていた。
犬山に来る前、あいつと別れたことをずっと引きずっていたんだなと思った。
どんでん博物館に着いた。
山車を収める蔵をイメージした建物。
中は実際の車山が展示されていて、祭りの音と共に最後には提灯が点灯される。
これが十三両も集まってからくりが奉納される。
凄い祭りだなと思った。
地元にも祭りはあるのだがこんな凄いのはない。
私の育ったとこは比較的新しい街で、歴史があるっていうことは凄いと思った。
からくりにしたって今の技術を使えばもっと凄いものはできるけど、昔からつないできたというだけでそれは価値があると思う。
新しく優れたものの価値は言うまでも無いが、ただ最新の電子機器で百年使えるものなんて無いからな。
私の仕事だって百年後の話なんかしたら何の価値もないと思う。
そんなこと言ったら何だってそうなんだけど、だから本当に今回犬山で見たものはそういった凄いものばかりだ。
仕事では早く成果を出すことが評価になるが、こうして積み上げられたものの価値にはけしてかなわない。
本当にいろんな事を学ばせてもらった。
祭りの映像を眺める。
からくりの操作、演奏の練習。
車山に初上がりの子の高価な衣装は嫁の実家が出すそうだ。
車山のある街に嫁は出すなと言うらしい。
うちのケチな父は本当にいいそうだな。
からくり奉納、そしてどんでん。
なるほど。
車山を持ち上げて回転させるんだな。
驚いた。
そしてからくり奉納後のどんでんは山車持ち上げたまま戻る距離を競うようだ。
担ぎ手達の苦しげな息づかいが映像からでも伝わる。
これは凄い。
今度、祭りを見に来るか。
外を出ると少し日も落ち着いてきたかな。
小学生の列が横断する。
当たり前だけど、ここが日常なんだな。
私も住んでみたいなと思った。
からくり館で見た彼女が飛騨牛握りを頼んでいた。
いろいろとかわいらしいものがある中、やはり彼女とは気が合うかも知れないと思いつつ素通りしてしまう。
こういうところで声をかけれないから自分の世界が広がらないんだ。
そして別の店で飛騨牛握りを頼んでその場で食べていると
「観光ですか。
俺、地元ですけど良かったら案内しますよ」
男が声を掛けてきた。
隙を見せるとすぐにこれだ。
まあ、私がいい女だからかな。
犬山の力か何なのか嫌な気はしなかった。
「何町ですか?」
「家?
魚町だけど」
「乱杭渡りの!」
「えっ、あっ、はい」
「ところで私の父はケチですけど大丈夫ですか」
犬山と人 最時 @ryggdrasil
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