デスペラート☆クワク (6)
宴の余韻が冷めやらぬ翌日、村の広場に響き渡った一声が、村の空気を一変させた。
「コボルトだ!」
「奴ら、またノコノコと出てきやがった!」
村人たちは慌てて広場に集まり、農具を手に取る者も現れた。その表情には、どこか緊張しつつも、ゴブリンを退けた直後の高揚感からか、妙な自信も漂っている。
「コボルトなら俺たちでもなんとかなるだろう!」
そんな声が上がり、場が少しざわめく。
村長の家で休息を取っていた三人は、その声を聞き、顔を見合わせた。
「……またかよ。」
ボガートが呆れたように肩をすくめる。
「まあ、あまり放っておけないな。」
ホッブは大きくため息をつきながら立ち上がった。
ニーアは壁に立てかけていた新しい槍を手に取り、軽くバランスを確かめながら微笑む。
「コボルトって言っても、数が多くなければ大丈夫でしょうけどね。」
「頼むから、あんまり楽しそうに言わないでくれよ、姐さん。」
ボガートが苦笑すると、ニーアは軽く槍を肩に乗せて部屋を出た。
三人が広場に向かうと、村長が村人たちを落ち着かせようと声を張り上げていた。
「落ち着け! どうやら奴らは、この村を襲うつもりじゃない!」
その言葉に村人たちが動きを止める。中には拍子抜けしたような表情を浮かべる者もいたが、それでも警戒を解く者はいない。
三人は村長に歩み寄り、ホッブが真っ先に尋ねた。
「村長、状況を教えてくれ。」
村長は困ったように額を拭きながら説明を始めた。
「さっき村外れで見かけたんだが、どうもコボルトどもは、この村を目指してるわけじゃないらしい。いや、むしろ何かに追われて逃げているように見えたんだ。」
「追われてる?」
ニーアが首をかしげると、村長はうなずく。
「ええ、後ろを何度も振り返っていたし、傷を負ってる奴もいた。あの様子じゃ、かなりの混乱状態ですよ。」
ボガートは腕を組み、ニヤリと笑った。
「へぇ、追われてる相手か。そいつを確かめに行けば、ゴブリン以上の手ごたえがあるかもな。」
「相変わらず、戦いになると調子いいわね。」
ニーアがじろりと睨むが、その顔にはどこか楽しげな色が混じっていた。新しい槍を軽く振りながら、ぽつりと呟く。
「まあ、ちょうど良いわね。腕試しには。」
「姐さん、それ、完全にワクワクしてる顔っすよ。」
ボガートが苦笑しながら肩をすくめると、ホッブが低い声でまとめた。
「いずれにせよ、何か妙なことが起きてるのは確かだな。洞窟より奥を調べてみる必要がありそうだ。」
「しかし……」
村長が少し不安げに口を開いた。
「洞窟の奥の森は、我々村人は近づかない場所です」
村長は三人の様子を見つめ、心配そうに眉をひそめた。
「我々村人ですら滅多に近づきません。昔からあそこには『危険が潜む』と言い伝えられていて……どうかお気をつけて。」
その言葉に「心配しないでください。」とボガートがにこやかに手を振る。
そしてホッブが静かに頷き、落ち着いた口調で答えた。
「大丈夫だ。俺たちは、何かあればすぐに引き返すつもりだ。……逃げ足には自信がある。」
その淡々とした言葉に、村長は少しだけ表情を緩めた。
「いや、頼りないんだか頼りになるんだか……。
でも、それを聞いて少し安心しました。
優秀な冒険者は決して無理をしないモノだと聞いたことがあります。
とはいえ……本当にご無理はなさらぬように。」
すると、ボガートが村長に歩み寄り、軽く肩をすくめて口を開いた。
「それにしても、村長さん。ゴブリン退治に続いて、今度はコボルト絡みとは……ずいぶん大きな問題が続きますねぇ。」
村長は苦笑しながら頷く。
「ええ、本当に。今年は厄年かと思うほどです。だが、勇者様方がいてくださるおかげで、村人たちも随分と心が軽くなっております。」
その言葉に、ニーアが槍を軽く肩に乗せながら、少し茶化すような口調で返した。
「安心するのは良いことね。でも、もし何か起きたら村長が村人をまとめて、逃げ道くらいは確保しておいてよね?」
「全くだ。いくら俺達でも、限度がある。そんな時な変な未練を捨てて、着の身着のままで逃げ出してくれ、大けがさえしなけりゃ、後はなんとかなるもんだ」
「心得ておりますとも。」
村長は苦笑しながら、三人に深く頭を下げた。
「どうかお気をつけて……。」
村人たちが見守る中、三人は再び洞窟へ向けて歩き始めた。
「コボルトが追われるなんて、いったい何がいるんだろうね。」
ニーアがふと呟くと、ボガートが口元を歪めた。
「それを確かめに行くのが俺たちの仕事だろ? ゴブリンみたいな小物じゃないことを祈るよ。」
ホッブは少し前を歩きながら短く答えた。
「祈る必要はない。どんな相手でもやるだけだ。」
「……正直、面倒な仕事だが。」
ホッブがぽつりと呟いた。その声にはわずかな疲労感が滲んでいる。
「まあ、何か面白いものが見つかるかもしれんしな。」
「ほら、ホッブも案外楽しみにしてるじゃない。」
ニーアが軽く笑いながら言い、新しい槍を手に取ってそのバランスを確かめるように振ってみせた。
「せっかくだから、この槍がどれだけ使えるか試しておきたいのよね。」
「姐さん、その顔は完全に戦闘好きの顔っすよ。」
ボガートが苦笑を浮かべて軽口を叩く。その声に、ニーアは悪びれた様子もなく小さく笑うだけだった。
ボガードは軽く肩をすくめた。
「まあ、どんな強い相手が来ても一緒っすよ。
いざとなったら、こっから逃げりゃ良いだけだし」
「違いない」
三人は笑いながらも、慎重な足取りで、ゆっくりと洞窟の方向へと足を進める。
どこか余裕を見せつつも、慎重さを失うことのないその足取りには、これまで積み重ねてきた経験と、自分たちの力への確信が滲んでいた。
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