聖杯《チャリス》探索のその横で
製本業者
デスペラート☆クワク (序)
安息日前の満月の夜ともなれば、
祭りともなれば準備は大々的になり、村中が大騒ぎするのだが、月に一度のお楽しみ程度であれば、そこまで手間暇をかけるわけにはいかない。とはいえ、手間を惜しみつつも楽しみたいという思いは、誰もが同じだ。だからこそ、人々は自然と宿屋へと繰り出してくるのだ。
だが、今日はそれ以上に妙に皆が浮かれていた。
それも当然のことだろう。来週の安息日には、年に一度の収穫祭が控えているのだ。収穫の疲れと実りの喜びを胸に、誰もが待ちわびた祭りの到来に心を弾ませている。それに加えて、今年の祭りには、何年かに一度しか見られない催し
宿屋の店内には、既に一仕事終えた百姓たちが何人も集まり、
この宿は、男爵の館から馬でおおよそ半日という位置にあり、馬車で旅をする貴族や富裕層の利用も多い。通常、日没後の訪問は、
そんな客たちの間を、大きなお腹を前掛けで包んだ店主が、跛足を引きながら注文を取って飛び回っていた。椅子の間隔が広めに取られているのも、店主の動きやすさを配慮してのことだろう。
「シュナプスかい、すぐに持ってくるよ!」
「おい、スタウトのいいやつが入ったぞ。珍しいだろう?」
「なんと、新鮮な
「
少女が料理を運ぶ中、店主は陽気に声をかけ、客たちを楽しませている。
食堂の中央にある囲炉裏で豚肉が焼き上がり、芳しい香りが立ち込める頃、店内の賑わいは最高潮に達していた。
「オヤジ、また話をしてくれよ!」
誰からともなく声が上がり、同時に「お話!」という声があちこちから湧き上がる。これこそが、この宿に人々が集まる最大の理由だ。
冒険者として各地を巡った店主の
「おいおい、来週は祭りだろう? 今日ぐらいいいじゃないか!」
店主は、冒険中に折ったという大きな団子っ鼻に浮かんだ汗を、袖口の布きれでぬぐうと、満面の笑みを浮かべながらもどこか困惑したように周囲を見渡した。その時、宿泊客用の席に座っていた婦人が声をかけた。
「あら、素敵ですね。ぜひ聞かせていただきたいわ」
「
婦人は軽く
「でも、軽業とお話とは別物でしてよ」
婦人が艶やかな微笑みを浮かべると、店主は肩をすくめ、周囲の客たちを見回した。
「でしたら、私が今日はおごりますわ」
そう告げる婦人に、店主は慌てて応じたものの、結局、婦人の申し出に甘えることになった。客たちが歓声を上げる中、店主は頭を掻きながら話を始めた。
「では、どういった話がご所望ですか?」
「そうですね。駆け出しの勇者のお話なんてどうかしら? 強い方の冒険談もいいけれど、少し変わったお話を聞きたいわ」
店主は少し考え込むようにしてから、一杯のエールを飲み干した。
「よし、それじゃあ、吟遊詩人から教わった話を一つ聞かせよう。
三人の勇者が、国同士の争いの間隙を突いて襲ってきた魔物達の阻止に活躍した頃の物語だ――」
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