その人 [海]

紅葉屋 室

第1話 海

海をみていた。

ただ、みていた。

落胆はない。高揚もない。


ただ、眼前に迫る海をみていた。



不意に声をかけられた。


「灰色か、青か。黒か、それとも白か。」


わからない。あなたには、どうみえる。


「青ならば、どんな青だ。澄んでいるか。濁っているか。




                   よくみてみろ。」


わからない。 私にはわからない。


「この声はどうきこえる。」


「しわがれているか。若々しいか。」


「男か。女か。それとも子供か。」


海をみていた。


ただ、海をみていた。


美しいのか。恐ろしいのか。


私には わからない。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

その人 [海] 紅葉屋 室 @benihaya02

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る