第6話 お前もVtuberにならないか?



 目を覚ますと、見慣れた――それでいて懐かしい天井が目に入った。

 前々世での私の部屋だ。


「ねおちしてたかあ」


 大きな欠伸をかきながら身体を起こす。

 辺りには懐かしい漫画が散らばっており、存分にサブカルチャーを摂取していたのが分かる。


 HUN〇ER×HUN〇ERはやはり神。

 尚新刊。嘘だろ富〇……。


 キョロキョロを自分の部屋を眺め、ムフーと笑顔。

 やっぱ自分の部屋は最高だ。

 何というか、心の底から帰ってきたって感じするよね。


 まあ記憶にある部屋より大分キレイだけど。

 ありがとう母さん。永遠に頭が上がりませんですわ。


 ちなみにR-18系の代物はお亡くなりになってた。

 咲良がここのある漫画を求めて、ちょくちょく出入りしてたからだ。


 ポテンとウサギのように寝っ転がり、暖房を入れてからスマホと睨めっこを始める。


 セミダブル以上の布団はね。

 手足を伸ばせる事よりも、スマホやリモコンにノートパソコンとかを脇に置いてもまだ余裕があるのが最高なんだ。

 マジで便利。枕元にノートパソコン置いてみ? 飛ぶよ。


 まあ今はないんだけど。

 二十年前ですら『死ぬのか……俺……?』レベルで老朽化が進んでたんだ。

 そりゃあとっくにご臨終だろうて。


「そういや新年か」


 スマホに映る日付を見遣り、今日が元旦だったと思い出す。

 お年玉とかあるかなー。や、さすがに無いか。

 くう、とお腹が空腹を訴えてきたので、私は寒い寒いと身を震わせながら布団から抜け出した。


 部屋を出て、すぐ隣にある階段を降りる。


「おはよ~。あけましておめでとうございま~す」


 リビングに入ると、既に咲良以外の面々が集まっていた。


「あ、貴女……なんてはしたない恰好を……!」


 おめでとうという返事が返ってくる中、楓が唖然とした様子を私を見ていた。


「ん? まあ別に良くない? ここで着飾ってもアレだし」


 私は自分の寝間着を眺める。

 生地の薄い、白いノースリーブのネグリジェだ。

 丈も短く、蠱惑的な脚線美を描いた太ももが露出しており、ちょっとエッチなのは否めない。


 おっぺぇも相当だけど、太ももの曲線美も中々の自慢よー。

 こう……細長いのにもっちりしてそうな見た目だからね。


 マジでおいどんの見た目がteirSSSSSSSSSSSSすぎる。尚中身。

 生きた年数を合算したら、もうオッサンなんだよなぁ。


「寒くないのかしら?」

「寒いよ。めちゃくちゃ寒い。廊下とかホント地獄」

「じゃあ何でそんな薄着なのよ」


 と、呆れたような楓の半眼。

 いやいや、これにもちゃんと理由がありましてだね。


「家の中で厚着するの嫌いなんだ。前々世の私は、春夏秋冬Tシャツにパンツ一枚のスタイルだったよ」


 マジ? という視線に、前々世を知る家族一同が頷いた。


「見てるこっちが寒くなるから、冬は止めてほしいんだけどねえ」

「言っても全然聞かなかったのよね」

「ムリ。窮屈、キライ」

「なぜ片言」


 何ならネックラインもVネック一択だったくらいだもん。

 U字ですらムリ。

 クルーネックなんて着た日にはストレス死するかもしれんね。


 その点、ネグリジェは最高だ。

 特に布団に入り込んだ時が良い。

 布団の中でもぞもぞ動き、全身で生地の肌触りを感じる瞬間は、まさに至福の一言。


 嘘だと思う人は一度薄着で試してみてほしい。

 解放感と抱擁感が同時に味わえるあの快楽を知っても尚、同じことが言えるかな?


 私はダイニングに移動して、テーブルにあるおせち料理を見た。

 おせちと言っても、あるのは、伊達巻に卵焼き。

 それからいなり寿司に卵巻き寿司、そして羊羹くらいだ。


 うむ、この中途半端な感じが実に我が家である。

 黒豆やら数の子を見た記憶がない。

 初詣とかも行かないし。


 いなり寿司をつまみ食いしながらコンロにある鍋に火を掛ける。

 中はお雑煮だ。隣の鍋にはお汁粉があるけど、私はあんまり好きじゃないのでスルー。

 あの粒々した小豆の食感だね。圧倒的こしあん派なのよ。


「……本当に悠二なのねえ」


 いつの間にか近くに来ていた母さんが感慨深げに呟いた。

 もぐもぐ、ごっくんといなり寿司を飲み込み、


「どしたの、いきなり?」

「……姿形は変わっても行動が一緒なんだもの」


 可笑しいと、だけど懐かしそうに母さんは笑う。

 それからドレッサーにある霧吹きと櫛を持ってくると、私の髪を梳かし始めた。


「どうせ寝ぐせを付けたまま過ごすつもりだったんでしょ? 女の子になっても身嗜みが適当なのはどうかと思うわよ。ちゃんと直しなさいな」


 見事に私の物臭っぷりを見抜いた発言だった。

 前々世の私、例え外出時であっても、ワシャワシャワシャて掻き回して『はい、完了』だったもんね。櫛とか使った覚えがない。


「さすがに外出するときは、ちゃんとするようになったよ」


 お玉でお雑煮に掻きながら答える。

 伊達に虐待染みた淑女教育を受けていない。

 その気になれば、深窓のお嬢様にジョブチェンジだって可能なのだ。


「家にいる時もよ。せっかくこんな宝石みたいな髪をしているんだから、ちゃんとお手入れをしなさい」

「はーい」


 適当な相槌を打ったけど、懐かしいお節介に頬が緩む。

 ……ちゃんと親孝行してかないとなぁ。







「ほーいや、ふぁくらはまだれてるの?」


 口に咥えた餅をうにょーんと伸ばし切りながら、この場に唯一いない咲良のことを話題に出した。


「でしょうね。あの子は年越し配信で夜更かししてたから」


 ごっくん。


「配信?」

「咲良はVtuberなのよ」

「Vtuber? へー、まだ生きてたんだ」

「何てことを言うの」


 失敬な、と三希が怒る。

 根っからのVtuberファンだもんな。


「や、だってVtuberブームから二十年以上経ってるんだよ? 流石にそんなに続くとは思わんじゃん」

「……まあ一時期下火になったのは事実だけど」

「ちなみに何て名前?」

「双葉桜華。プリズマアークに所属するケモ耳美少女よ」


 妙に自慢げだな。

 えー、双葉桜華。検索検索。

 お、あった。


「チャンネル登録者数五十万ってかなり凄いじゃん」

「でしょ!」

「でも意外。あの子、結構話すの苦手そうに見えたけど」


 言いながら最新のライブを再生する。

 六時間前に配信が終了したってことは、午前三時くらいまで配信してたってことか。

 そりゃまだ寝てるわけだ。


 画面に映っているのは、桜色の髪にケモ耳を生やしたアニメ調の3Dモデルだ。

 へえ、Vtuberの3Dモデルって私の時代だとゲームキャラの劣化版って感じだったけど、それなりに進化してらっしゃるわね。

 髪の質感や表情が大分進歩してる。


 配信の内容は三希の言った通り、年越しをリスナーと共に迎えるといったものだ。

 いわゆる雑談系であり、双葉桜華というキャラクターが身振り手振りを加えながらトークを広げている。


 声は……私が聞いたものよりちょっと高いけど、確かに咲良の面影があった。

 しかも私の想像を裏切るかのように、結構淀みなく話せている。


「配信で喋るのと対面で喋るのは別物だもの」

「ふうん、そういうもんか」


 内弁慶みたいなやつか。

 ん? この背景どこかで見覚えが……。

 というか、大分リアルな質感な気が。


「これ、AR配信?」


 この背景は、咲良の自室そのものだった。

 昨日、私の漫画を返してもらうために部屋に入ったから間違いない。


「ええ。今の技術なら家での配信でも現実にVtuberを召喚することも可能なのよ!」


 テンション高っ。

 二十年経っても尚熱意が顕在とか気合入ってるなぁ。


「それだけじゃないわよ、兄さん。何と今じゃVRマシンも開発されてフルダイブもできる世の中になったんだから!」

「へ~」

「……反応薄くない? 結構憧れてたわよね?」

「そりゃ私の前世じゃ当たり前に普及してたからね。それも地球のよりずっとハイスペックなのが」

「そういや、普通にSFチックな異世界だったんだっけ」


 イグザクトリー。

 そもそも地球にフルダイブ技術が誕生してるのは知ってたし。

 プレイする余裕なんてなかったけど、元ゲーマーとしては今のゲーム界隈がどんなのか気になって調べたことがあったのだ。


 でも、そのクオリティは前世のと比べるまでもなかった。

 地球産のアバターがゲームキャラクター同等なのに対し、前世産のアバターは神作画の如くヌルヌルときめ細やかに動き回るのだ。


 ゲームにしてもそう。

 格ゲーやレースゲームにパーティゲームは発売済みだが、フルダイブの真骨頂(ゲーマー目線)たるVRMMOには大分手を焼いているのだとか。


 それを知っていれば『まあそんなものか』程度に落ち着くわけで。

 要するに、今は黎明期なんろう。

 おそらく後二十年もすればVRMMOも形になるんじゃないかしら。


 何となく咲良の所属するプリズマアーク? に付いて色々検索していると、ある名前が目に止まった。


「CEO……如月三希」


 !!!????

 バッと私が隣を見遣ると、三希はドヤ顔を浮かべた。


「夢だったの。自分だけの箱を作るの」

「お前、凄いね……」


 思わず前々世での二人称が飛び出すほどの衝撃だった。


「しかも結構な大企業じゃん」


 それこそ二十年前に覇権を取っていた二大企業に並ばんとする勢いだ。

 登録者数百万超えのライバーもいる。


「起業するには良いタイミングだったのよ。Vが下火になって久しかった時にVRマシンが発売されると聞いた瞬間『これだ!』ってなったわ。フルダイブもそうだけど、AR配信も充分な革命だったもの」


 まああの頃のVは、リアルの物を手に取ったりするシーンは半ばパントマイムみたいなもんだったからなぁ。

 そのハンデを失くせたのは大きいと思う。

 料理配信とかも映せるようになっただろうし。


「なるほど。そのおかげで再ブームの波に乗れたわけだ」

「ええ。ちなみに私もプリズマアークに所属するVtuberの一人よ」


 と、三希が見せてきたスマホには、双葉桜華を大人に成長させたようなケモ耳美女が。

 胸元が開いた艶っぽい和装に深紅の番傘がとても似合って見えた。


 親子でVtuberって斬新だなぁ。

 でも、三希のVtuberの熱意を鑑みたら、自分もやりたいと思うのは当然か。


 名前は……双葉散華。

 ……双葉?


「もしかして」

「ええ、Vtuberとしても親子でやらせてもらってるわ!」


 もっと斬新なのが出てきちゃった。

 親子でVtuberやってて、Vtuberの設定でも親子って中々ハジケてんな。


「つまり咲良は社長令嬢というわけなんだね」


 カケラもそんな素振り見えんかったが。

 多分実家住まいなのが悪い。増築したとはいえ、豪邸とは程遠いし。


「というか、それなのに実家暮らしなんだ」


 そのことを口に出すと、何故かジト目が返ってきた。


「そりゃあ実家に寄生することを公言してた次男がぽっくりと逝っちまいましたからねえ。親を置いて独り立ちするのは躊躇われたんですわあ」

「大変申し訳ございませんでした」


 完全に私のせいだった件。藪蛇だった!

 ちょっとした冗談のつもりだったのに、えげつないストレートが返ってきた。

 私が悪いんだけども。


 堪らず胸を抑えた私を暫し神妙に見つめた後、徐に三希はこう言った。


「ねえ、兄さんもVtuberにならない?」

「猗〇座みたいなこと言うじゃん」

「もうそのネタ、今の世代の子たちには分からないわよ」


 何……だと……!?

 楓を見遣れば『誰?』と疑問符を浮かべていた。


「当然だけど、その顔芸もね」


 何――。

 愕然とする私に、慎兄が冷笑を浴びせた。


「フン、これが平成に取り残された者の末路か。愚かな」

「『どすこいアへオホ頂上戦争』でヌいたことある人は黙ってて」

「ほわああああああ!!??」




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