バトコン バトルコントローラー

就労Bのマサ

第1話 バトコンなんてやりたくない

 愛媛県にある松前町。

どこにでもある県庁所在地の隣の町。

 その中心にある学校に通う小学4年生の田中将太。いつも一人で遊んでいる。学校では、バトルコントローラー 通称 バトコンが流行っていてみんなはその話ばかりしている。

 バトコン ゲームゴーグルを頭部につけてコントローラーで操作する次世代ゲームだ。

「この前、マリ3のラスト飛行艇は凄かったね。あんなところ、普通は落ちて終わるのにプロは、ノーダメージでクリアするんだから」

「ああ、俺たちなら1の飛行艇で落ちて終わりだよ」

「私も1の4でいつも落ちて終わりなんだよ」

「あそこは隠れ家を出して無限羽が勝確なんだよ」

 あちらでもこちらでもバトコンの話ばかりだ。

 将太は、早く、授業にならないか待っていた。

「将太君は、バトコンやってるの?」

 クラスメイトがいきなり聞いてきた。

「僕は、親が厳しいから…」

 返せた言葉はそれだけだった。

「そっか、買ってもらったらやろうね」

「キーンコーンカンコーン」

 予鈴が鳴った。助かった。将太は、心で思った。

 予鈴と同時に先生が入ってきた。それと女の子が一人。

「はい、ホームルーム始めるぞ。まずは、転校生だ。自己紹介して」

 女の子は、ホワイトボードに名前を書いて

「私は、木上さおり。みなさん、よろしく」

 元気のいい声でみんなは、びっくりしていた。

「木上さおりさんだ。みんな、仲良くな。席は、田中の隣がいいな」

「え…」

 女の子が隣に座った。僕は、心臓がばくばくしている。

「将太君、いつも下向いて私を忘れたの?」

「え?」

 僕は、彼女の顔を見た。

「さおちゃん?」

 思わず、名前を読んでしまった。

「うん、将ちゃん、さおりだよ」

「おい、転校そうそう、いちゃいちゃするなよ」

 クラスメイトからヤジが飛ぶ。

「え、あの、その」

「ごめんなさい!田中君は、又従兄弟なの」

「ええええーーーー」

 クラスメイトは、絶叫した。

「森熊先生、又従兄弟って同じクラスいいの?」

「ええよ。従兄弟でも同じクラスなんだし。だいたい、この少子化ご時世にそんなこと言ってられるか」

 さおりは、手を振って

「また、放課後にね」

 僕は、顔が真っ赤になって下を向いていた。

「さあ、儀式は終わった?そうそう、今、バトコン流行ってるみたいだけどバトコンは持ち込みダメやぞ」

「えええええーー!!!!」

 クラスメイト全員(将太とさおり除いて)はブーイングだ。

「当たり前やろ。おもちゃ、学校持ってきてどうする?」

「先生、隣の北条小学校は、持ってきてええってなってるよ」

「あれは、県の代表になったからやろ。この学校でそれくらいの部活だったら許可おりるやろ」

 さおりは、手をあげた。

「先生、バトコンで県大会でれるくらいなら許可おりますか?」

「ああ、まあ、登校の時に預かって部活時間に渡すなら可能だと思うけど」

「なら、私、バトコン部作りたいと思います!」

「ええええええ!!!!」

 また、クラスメイト全員(将太以外)が驚いた。

「そんなの無理だよ」

「だって、小学生の部だってめっちゃ強いのに」

「だいいち、部活って5人いるんでしょ」

 さおりは、元気よく。

「だって、やりたいもの」

「まあ、その話は放課後にね。さあ、今日も元気に授業だ」

 さおりの悪い癖がはじまったとため息がでる将太。いつもそうだ。いきなり決めていきなり巻き込む。

「ちょんちょん」

 僕の腕をつついてくるさおり。

「じゃあ、放課後にね…」

 まさに正夢悪夢しかない。

 その後、放課後。僕は、日直の仕事を終えて職員室に向かった。すると森熊先生とさおりが話していた。

「先生、5人集まれば、部活になるんですね」

「そうだけど、転校してすぐに5人あつまるか?」

「もう、すでに1人は確保してます」

おいおいどう考えても僕をいれてるよな。

「まあ、5人集まったら来てくれ、顧問や部室もあるし」

「ありがとうごさいます。失礼しました」

 僕は、さおりとすれ違って日誌を先生に渡した。

「おう、田中、木上はどうだ?」

「どうも、いつもあんな感じです」

「そうじゃなくて学校やっていけるかだよ」

「僕よりもやっていけますよ」

 僕は、嫌みたらしく言ってしまった。

「まあ、又従兄弟なんだし、お互いがんばれよ」

「わかりました。失礼しました」

 僕は、ランドセルをしょって下駄箱に向かった。

 そこにあの3人組がいた。

「まてよ」

「今日は、俺たち、サッカーするんだ。付き合えよ」

体の大きい、たけしがいきなり言ってきた。

「いいよ」

「ああ?やらねえのかよ」

小柄の嫌みなひろゆきが言い寄ってきた。

「こんなやつほおっておいて行きましょうよ」

高飛車でかわいくない蓮が蔑んだ顔で言ってきた。

「そうだな。こんなやついてもいなくてもいいんだよ」

 そう言って去って言った。

 僕は、下を向きながら涙をこらえて正門まで行った。

「待ってたよ」

 さおりがいた。

「どうしたの?」

 顔を拭って

「なんでもない」

「いつもそう言ったとき、なにかあるんだよね」

「うるさい」

 僕は、さっきのことを思いながら家に向けて歩きだした。

「ねえ、バトコン部入ってよ」

「絶対、嫌」

「なんでよ。ゲーム好きでしょ」

「だって、バトコン持ってないから」

「お母さんに頼んだら?誕生日、今月だし」

「お父さんが真人お兄さんみたいにろくでなしになるからダメだって」

 さおりは、首を傾げる。

「マサ兄は、変だけど悪い人じゃないよ。昔のゲームうまかったし」

「うまくたって心が壊れたらダメなんだよ」

 さおりは、ポカーンとしてした。

「マサ兄はともかく、バトコンあればいいんだね」

「絶対、買ってくれないし、できないよ」

「じゃあ、その絶対をなんとかしてあげる」

 そして、手を振って左の道に走っていった。

僕は、右の道に行った。けど、家なんて歩いてすぐなんだよ。あいつの実家、俺の家の近くだし。

 そういえば、なんで実家に戻ってきたんだ?首を傾げながら家に着いた。

「ただいま」

 そう言うと母がキッチンから出てきた。

「将太。さおりちゃんと会えた?」

「ううん、知ってたのなら教えてよ」

「お母さんもお昼に知ったのよ。なんでも、ご  両親が実家に帰ることが決まったのはいきなりだったみたいで」

 本当に親子揃っていきなりだ。

「そういえば、誕生日はなにが欲しいの?」

「どうせ、父さんは、ゲーム買ってくれないよ」

「なんで?学校の成績は悪くないよ」

「父さんは、真人お兄さんみたいになるとかいって買ってくれん」

 僕は、ふてくされて言った。

「言うだけ言ってみたらいいやん」

「言うだけ無駄だよ」

「そういえば、さおりちゃん、お父さんのところに挨拶に行ったけど」

 なんか、嫌な予感しかしない。

 僕は、宿題をして夕飯を食べていると父さんが帰ってきた。

「ただいま」

「お帰りなさい」

「おかえり」

 僕は、階段を下りながら父さんの元に行く。

「将太。木上さんに感謝しろよ。ほら、バトコンもらったんよ。木上さん、商社勤めで得意先から2つもらったんだって。その1つを将太にって」

 僕は、なんだか、不思議だった。さおりの思い通りになったようだったけど。うれしさのほうが大きかったからだ。

「父さん、ありがとう」

「俺に言う前に木上さんにお礼に行け」

 僕は、すぐにバトコンを持って木上さんのうちに向かった。

「ピンポーン」

「はーい」

さおりのお母さんが出た。

「まあ、将太くん、バトコンもって」

 続けて居間からさおりのお父さんが来た。

「おお、将太くん、バトコンどうだい」

「はい、とてもうれしいです。バトコンありがとうごさいます」

「さおりもバトコン持ってるから2人で部活やるらしいね。あいつは、猪突猛進だから心配なんだよ。まあ、仲良くやってくれよ。あと、お父さんとお母さんにもよろしくね」

 階段の手すりからにやにやした顔でさおりが見ていた。

「そうなの。2人で部活やるのーー」

わざとらしくしやがって。

「はい、5人揃ったら部活できるのでがんばります」

「そうか、頑張ってね」

「じゃあ、僕は、これで失礼します」

 僕は、帰ろうとするとさおりは、手を握って耳元で

「明日から2人でバトコンしようね」

僕は、顔を赤めて手の感触を確かめながら

「練習してからね」

「うん、2人で」

 なんか、うれしかった。女の子の手を握るのは、本当になんか、不思議な気持ちになる。それよりも帰ってバトコンの設定をしないと。

3人に挨拶して僕は、家に帰った。

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バトコン バトルコントローラー 就労Bのマサ @yokoyama2002

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