第4話 部活動
ーそして私は体育館に赴くことになった。ー
柔道部との兼ね合いで、剣道部は畳の上ではなくツルツルした木の床の上で練習をすることになっているようだ。
この中学の吹奏楽と柔道は強豪らしい。
音楽室への道はごった返していたし、ここにも子供たちの親が大勢来ていて、もはや息苦しいくらいの密集具合を見せている。
剣道部の親見学者は私と、もう一人女性がいるだけ。
一旦のりおと別れてから来たんだけど、あの子と他に7人の子供たちが道着と装備を着て既に集まっていた。
「お願いしまーす。」
部長らしき髪の長い女の子がよく通る声で挨拶をした。
「「「「「「「お願いします」」」」」」」
それに続いて、彼女の言葉が続いた。
髪が白いこと以外はどうやら普通に馴染めてるっぽいな。
それが確認できてなんだかホッとした。
その安堵が電波したか、のりおがちらっとこっちを向いてきた。
うわっ。げっ、って顔すんな。
あえてニコっと笑ってスマホを取り出す仕草したら余計焦ってた。
もうビデオカメラ買っちゃおっかな。
運動会に備えて。
そうやってのりおをからかってたら、一瞬
皆の前に立っている部長の女の子と目が合った。
まるでダメなことしてるのを先生に見つかったみたいな、どこか懐かしい気分になったのも束の間。
「…のりおくーん。お母さんといちゃいちゃしてんのバレてるよー」
彼女ものりおをからかいはじめた。
「…はっ、ち、ちがっ…!」
「……あ、のりおマザコンなんや。」
「えー。意外やわー。」
弁明するのりおと、便乗して煽る周りの子供たち。のりおは結局顔を赤くして縮こまってしまった。
「のりおくんとのりおママのせいで話逸れたけど、今日は参観やから、久々にトーナメントやるよっ。じゃんけんでブロック作ってー。」
「全員ボロ負かしてやる…、」
そう呟いたのりおと、それに反応する皆。
私はホッとした気持ちから一転、ほっこりしたようなあったかい気持ちでそれを眺めていた。
…居場所……できてんじゃん……。
もちろん、剣道部の子供たちが全員髪の色が特殊で新入生って肩書の多いのりおを、排除せず、仲間に入れてくれる優しい子達だというのは紛れもない事実だろう。
でもああやって言い返したり、組織に溶け込んだりしてるのは、紛れもなくのりおの努力
が関わっている。
極端に人との交流が少ない幼少期を過ごしたということが原因で、依然として自分以外の存在を異質だと思うことがやめられないあの子にとって、こうして初めて居場所ができたというのは何か大きな意味があるのではないかと、思ってやまなかった。
よかったね。のりお。
もうアンタは私が思ってるより弱くないんだね。
そんな感傷にふけっていたら、いつの間にか彼らは試合を始めていた。
もうお面越しでしか顔は分からないが、初戦は部長の女の子と背の低い男の子。
スペースをいっぱいに使って一試合ずつやっていくみたいだ。
残りの観戦の子たちも一生懸命試合を観てるところからも、ここの剣道部の皆の真面目さが感じられた。
さて、そして二人は機会を窺うようにして、あ、いや、実際ホントに攻める機会を窺ってるんだろうけど……、剣を構えながらゆっくりと間合いを測ってあた。
お互いが剣先を擦り合わせるようにして威嚇しながら、
お互いが集中力を研ぎ澄ませ、
男の子が振り上げたのに合わせて部長も剣を振り上げた。そしてほんの瞬きくらいのスピードで勝敗が決まって旗が上がり、部長の勝ちが告げられる結果になった。
「あぶなー!!」
「くっそ………負けた……。」
「流石に負けれんからね。
のりおくんボコボコにしたいし。」
剣道のルールなんて私は知らないが、中学生の練習でもスピーディーで緊張感の溢れる様子をみると、白熱したエキサイティングな気持ちが抑えられない。
しかも、それが我が子となると更に格別だ。
次はのりおの番だった。
のりおと、また別の女の子との試合。
二人が向き合って腰を落としたところで、戦いは始まった。
さぁ、はじめて観るのりおの剣道の腕前。
私は思わず手を握りしめていたが、そんなことに気付く隙もないくらいの速度で、女の子は剣を振って仕掛けた。
速すぎて速いと思う暇さえ無かった。
しかしそれを剣を傾け するり といなしたのりお。
凄っ と思うよりも速いスピードだった。
いちいち感想なんて抱いてらんないよ。
ここで間髪入れず攻めに転じるかと思いきや間合いをとったのりお。
…やっぱ相当強いんだ………、
何か考えがあるのか、一瞬の連続で彼は何を考えているのか、気が付けば私はすっかり夢中にさせられていたと言えるだろう。
のりおの足取りから腕の向き、まさしく一挙手一投足に意味や価値があるように思えて、その全容を目に焼き付けたい衝動に駆られた。
そして………
鍔迫り合いに発展したかと思えば剣が離れ、のりおの剣が羽虫のような勢いで
鬼のような速度で振るったのりおの剣がお面に命中したのと敗北を認め、お面をとった女の子。
その直後、頭を横に降って髪を揺らし、自由にしながらお面をとったのりおは、不敵という言葉がよく似合った。
「…どうやら今日は調子が良いらしい。」
その幻想的ともいうべきその端正な顔には、爽やかな笑みが浮かんでいた。
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