十一話「繋がってたくて」
次の日の朝。
いつものように目が覚め、体を起こそうとするが、なにかに体を引っ張られて起きられない、チラッと勇鬼の方を見てみると。勇鬼は俺の腕をがっしりホールドしていて動かなかった。
朝の間に髭をそったりしたいから起きたいのだが、勇鬼の腕はなかなか外れずどうしようかと途方に暮れた。
...試しに、鬼の角を少し触ってみる。
するとビクっと体が跳ねて、俺の腕をホールドしていた手が離れ、その隙を逃さず俺の腕は無事救出された。
「卵料理にするか」
今、俺は朝食の準備をしている。今日の朝ごはんは卵焼きに、人参と千切りキャベツ。そして汁物はいつも通りの味噌汁だ。
そして昨日と同じく、料理が全て完成して盛り付けていた所で、勇鬼が起きてくる。
「おはよう。そろそろ朝ご飯だから着替えたりして...」
勇鬼は俺の後ろから抱きついて、頭をグリグリと背中に擦り付ける。
...何をしているのだろうか...マーキングと言われるやつ?
...まぁ可愛いからいいけど、流石に料理の準備ができないから手に持ってるものを一旦置いて、勇鬼に話しかける。
「なぁ勇鬼。これ料理運べないから、離れてくれないか?」
「やだ...まだ抱きついてる...」
可愛いかよ。
上目遣いでこちらをじっと見つめてくる。
「なら、朝ご飯遅れるぞ」
「む...なら、離れる...その代わり食べ終わったらまた抱きついていい?」
「いいよ」
勇鬼は短く「わかった」と言って、その場から離れ、洗面所に向かった。
俺はその間に机の上に料理を盛り付けた皿を並べてご飯を盛り付け、席に座って勇鬼を待つのだった。
そして朝ご飯を食べ終わり、お互いの自由時間になると、言われた通りに勇鬼に抱きつかれていた。俺は抵抗することなく、勇鬼が満足するまで抱きつかれていた。
「つかむ....つかむ...」
勇鬼は俺の背中に頭を擦り付けて、俺の名前を何度も呼ぶ、気恥しいが表に出さないようなるべく別のことを考えて意識しないようにしていると、チクリと一瞬注射針が刺されたと勘違いする程の痛みが脳に届く。
「痛っ...」
口に出してしまう。
しかし血が垂れる感覚はなく、逆に噛んだ犯人である勇鬼の舌が肩に触れ、傷口を舐めていた。
「...何してんの?」
「ふぇ...?美味しそうだったから....つい....」
吸血鬼かな?
「別に噛むぐらいはいいが...いや良くないかもだけど。2人っきりの時だけにしろよ」
「うん...」
そう言って、勇鬼は再びゆっくりと自分がつけた俺の肩の傷口をゆっくり舐める。
ヒリヒリする感覚と唾液特有の粘液力がある感触がずっと頭の中に入って、他の事を考えさせないようにしていると勘違いをしてしまいそうだ。
「...忘れないで...」
ふと、そんな言葉が聞こえる。
「忘れないから...安心し...痛っ...!」
安心させようとすると、先程噛まれたところと同じ位のとこにまた激痛が走る。
さっきとは比べ物にならないほど強く、痛く、永遠に消えないようにとそんな願いが痛みと共に脳に伝わる。
それと同時に俺の腹にあった勇鬼の手がさらに強く抱きしめ始め、絶対に逃がさいという気持ちが伝わる。
そんな事せずとも俺は逃げないし、むしろ近づいて行くというのに...
気持ちが落ち着たのか、歯が離れ、痛みが少し晴れると言っても、その場所はジンジンと痛み続け血が流れてしまう...そう思っていた矢先、勇鬼の舌が触れて血を舐め取り、続けてぺろぺろと傷口を舐める。
ジンジンと痛む傷口に舌が押さえつけられると、より鮮明にその場所の痛みが脳に伝わってくる。
「つかむ...!つかむぅ....!」
そんな小さく、しかし確実に聞こえてくる勇鬼が俺を呼び続ける声に、俺はどうにか落ち着いてもらうと、痛みで上手く機能しない脳を無理に動かし口を開く。
「あ、あの...落ち着いくれ...まだ出勤まで時間あるから」
顔を動かして、勇鬼の顔を見れるようにして、そう伝えた。
「やふぁ....持っと...もっと....ずっと居たい」
勇鬼の瞳が妖しく紅く光る。
そして、ゆっくりと口が開かれ鋭い犬歯が煌めく。
「....はぁ...わかった。噛んでいいぞ、気が済むまで付き合ってやる」
「うん...」
勇鬼が小さく呟きまた、肩に激痛が走る。
目を瞑ってその痛みを何度も頭の中で繰り返す。おそらく、これは間違っている恋の仕方なのだろうが...お互い幸せなのだからそれでいいだろう。
時は経って何時のまにか勇鬼は眠りにいていた。俺は時間もいいので交番に向かおうと立ち上がり、勇鬼の頭を撫でて「言ってきます」と呟いた。
家を出ると、約束の弁当を貰うために花道の所に向かう。
『おっこも』につくと、店前に花道がおり。どうやら俺を待っててくれたみたいだった。
俺は駆け寄って挨拶をする。
「おはよう、花道」
「おはよう、つかむん。はいこれ今日の分のお弁当」
そう言って渡された弁当箱を受け取って、決めていた代金を払う。
「そういえばつかむん。親戚の子と何かあったの?」
その言葉にビクッと体が跳ねる。もしかして歯型が見えてるのか?そんな見える場所に付けちゃってるのか?
俺はそう思いこんで慌てて誤魔化す。
「き、昨日喧嘩しちゃって...そ、その時にな」
「ふーん...なら良かった」
ん?良かった?今花道から良かったという言葉が聞こえたが...気のせいだよな?
「お仕事頑張ってねつかむん」
そう言って花道はぐっと顔を近づけ静かに微笑んだ。
俺はドキッとしながらも、少し距離をとる。
「そ、それじゃ、俺行くわ。またお昼に来るからな!」
「うん、がんばってね」
花道はそう言って優しく手を振り返してくれた。
鬼神に涙は似合わない 永寝 風川 @kurabure
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