九話「語りごと、隠して微笑む。」
現在、俺は弁当箱を持って『おっこも』に来ていた。いつものように扉を横にスライドさせて、花道に弁当箱を渡す。
「ありがとうな、弁当とっても美味しかったぜ!」
「なら良かった。あ、そういえばつかむん。何か...いやなんでもない」
花道が何か言いたそうにしていたが、急に口を紡ぐ。
「? あ、そういやお前鬼様関連の話知らない?」
「なんで?」
「いや...」
どうしよう、親戚の子が知りたいとかにするか?それとも勇鬼の事を話すか...いや、確実に信じないだろう。俺でも、急に知ってる親友からお前は忘れてるだろうがと今の俺は本当に知らない人の事を言われたら、その後の話も何言ってんだこいつぐらいにしか聞かないはずだし、うーん。
「いや、親戚の子がこの村の鬼様に興味があるらしくて、俺が色々情報集めてるんだよ」
「ふーん...ならいいわ教えてあげる。その代わり仕込みが少しあるからそっちに集中することあるけどいい?」
「もちろん。ありがとう」
「それじゃあ聞くけどいま、どれくらいまで鬼様のお話知ってる?」
俺は自分が覚えてる範囲を思い出して話す。
「えーっと...鬼様は元々この村にやってきた鬼で、村人に恋をして、村の人々を助けて仕事を助けたり...みたいな話しか覚えないな」
「まぁ、基本はそんな感じね。んで、その見た目については、白い髪に鬼の角が生えた...位にしか書かれてないと思うでしょ?」
「違うのか?」
「昔のことだから間違えてるかもだけど、確かあの小学校の図書室に一つだけ鬼様に関することが色々かかれた本があって、それを見た事あるの。タイトルはなくて白い無機質な本だったんだけど...まぁ、その本によるとね、白く長い髪に赤鬼の角。しかしその姿は女の人間似て容姿はとても美しかった...と書かれていたわ」
そんなに詳しく描写されている本があったとわ...というか、俺は桃太郎や一寸法師に出てくる巨体に赤い肌をイメージしていたのだが、女性の人間に見た目が似ていたのか...ん?
...勇鬼の見た目と同一してる。
「それで、村人に関してだけど...どうやら男の人だったらしいわ。恋した理由については書かれてなかったけど、鬼は村人のみんなに認められるために畑仕事を手伝ったり、もののけの類や害獣から畑を守ったりして、恋した男性と結ばれた...んだけど...その後の神様として扱われるまでのお話がごそっとなかったのよね...」
「まるで誰かが他の人に知られたくなかったかのように...」
花道はそう最後につけ加えた。
...俺は最後にもう一度ありがとうとつけ加えて店を出る。
パトロールついでに情報収集もしたいが...それだと、途方もない時間がかかりそうだ。
そこまで考えると、とりあえず、村の中を回ろうと歩を進める。
村の中を歩いていると、そういえば神社もパトロールの範囲内だったことを思い出し、正直登りたくないと思いながらも、念の為に今歩いていた場所の真反対にある神社を目指す。石段の前に来ると、より一層気が重くなる、この石段は整備はちゃんとされていて、横幅大きいので足を滑らせることは無いのだが...何より段数が多すぎる。神社に着くためにはこの石段を普通に十何分か登らなくちゃいけない。きついし長い....それがこの石段の唯一の欠点と言ってもいいだろう。
しかし愚痴を言ってても、足を動かさなくては前に進まないのでゆっくりとうえに登った。あれから7分ぐらい登ると石造りの鳥居がちらっと見える、俺はもうすぐだからと自分に言い聞かせて足を進める。
登り終わる頃には足裏が痛くて今すぐ何処かに座りたくなる。強い風が急に吹いて、ふと後ろを振り向くと、木々が波のように横に揺れてザァザァという音を鳴らしていた。
前を向くとそこには確かに、勇鬼と再会した本殿がある。しかしその本殿は何か異様な雰囲気が纏われていた、試しにぐるっと1周してみる。しかし特に異常がないように見えた、しかしなにか引っかかりもう一度ぐるっと一周してみる。
ふと気づく...本殿の真後ろの山道に不自然なほどの霧が掛かっていた。何も見えないその霧の先は何があるのか不安と興奮を同時に感じさせ、お出でお出でと手招きされているような感覚に襲われる。しかし実際は1歩でさえもその霧の先にすすむと方向感覚が無くなってしまいそうなため、足をふみとどまる。
...俺は少し疲れているのだと思い、本殿にあるベンチに腰掛けて少し足を休める。その間に、俺が昇ってきた石段の方を見てどんな人がくるのか少し気になっている。
しかし待てども待てども、人は来ず。十分休憩できたのもありその場から立ち上がり石段を下りる。
最後の一段をおりて、時間を腕時計で確認するとそろそろ交番に戻って書類仕事をした方が良い時間帯だったため、まだあんまりパトロール出来てなかったルートをあえて通って交番に戻る。
交番に着いて、書類...といっても書くこと自体が起こってないため、今日も交番前にとって、道行く人々を見守る。
うん、今日も平和だった。
時間になり、1つのパトカーが交番前に泊まる。
降りてきたのは今日の朝いた2人組、千代さんと薬水先輩だ。
「おふたりともお疲れ様です!もう少し遅くに応援に来てもいいですからね?」
「大丈夫だよぉ...」
「いえいえ、お気になさらず!」
二人はそう返事してくれると、薬水先輩が俺の近くにグイッと近づいて、少しでも薬水先輩が背伸びするとキスしてしまいそうな距離感まで顔を近づけ、手を俺の背に回してくる。
「所でしんじんくぅん...」
「は、はい?!」
「本当に私のじっけ...いや、ものになってくれないかぁい?」
ちょっと?本音聞こえましたよ?というか、この人。本当にマッドサイエンティストなのか?なんで警官に入ったんだよ!もう少し別のことしたら平和のために...平和...のためになるか分からないけど...!少なくとも自分の才能を使えそうなのだが...
「ほら、薬水先輩!つかむさんが驚いてますので離れてください!」
「ひ、ひっぱらないでくれよちよくぅん!服が伸びるじゃないかぁ...!」
グイグイと千代さんが薬水先輩の袖を引っ張って俺との距離を離してくれた。
...なんか俺を睨みつけながら...これ嫉妬ってやつ?百合?百合さんなの?なの俺挟まってんじゃん...デスやんけ....終わりやぁ...
いやいや、流石に考えすぎだろう。そう思っていつも通りの態度に戻す。
「勤務交代ありがとうございます!」
「はい、勤務お疲れ様です!」
そう宣言して、少しして俺は服を私服に着替えると、ぺこりと千代さんに頭を下げる。
「先程は助けてくれてありがとうございます」
「いえいえ、うちの先輩のせいなのでおにならさず」
「分かりました」
そう言って、交番を出ようと歩を進めようとした時、千代さんに聞きたいことがあったのを思い出して、振り返る。
「そういえば...千代さんと薬水先輩ってなんでこっちに来てくれるんですか?」
「...んーとね...給料がアップするから?」
続けて薬水先輩が仮眠室から顔をひょこっと出して答える。
「私は行ってこいっていわれたからだねぇ!」
「な、なるほど...」
それぞれ色々あるんだなぁ...と思いながら俺は交番を後にした。
帰路に着いて、歩いていると目の前から見覚えのある姿がとてとてと小走りでやってくる。
「仕事終わったの...?つかむん」
俺はその言葉にゆっくり微笑んで答える。
「うん、終わったよ勇鬼。一緒に帰ろう」
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