アスカトラと言う世界で。

甘茶

白き厄災の目覚め

第1話 プロローグ



プロローグ



ある日、死の概念を司るとある大精霊パトは、気まぐれに一人の精霊を生み出していた。


大精霊とは世界でも上位に入る存在である。特に死を司るパトは精霊王より冥界の管理を任せれており、他にもいる大精霊より少し力が強く、いつも誇らしげに過ごしていた。しかしそんな存在も寂しくなり、眷属を生み出してみることにしたのである。


『さて、どんな子が生まれるかな。』


周りに誰もいない冥界のとある特別な空間でパトが呟く。手を伸ばし魔力を集め、力を込めて魂の器を作る。そこに魂ができるよう念じながら自分の魔力を少しずつ、少しずつ込めていく。すると、とある女の子が出てきた。


『おや、できたかな…?』


見た感じ女の子という以外わからない様な格好で踞っていた彼女は、やがて起き上がり言った。


『………私は、だれ。』


『君は僕に生み出された精霊だよ。』


パトは優しく教えてあげる。生まれたばかりの精霊なんてそんなものだからだ。しかし、次の言葉でその予想が外れる。


『違う、そんな事はわかってるの。何か、忘れているような、そんな気がする。』


『何かを忘れている…?申し訳ないけど、君の魂は至って正常だ、仮に何か記憶があったとしても記憶を司る部分が破損している様子も…………』


そう言いかけたパトは止まった。


『…記憶が封印されている?』


そう、魂の奥底に、世界の上位存在たるパトですら全力で集中しないと気づけないほど巧妙に記憶が封印されているのだ。しかも、その封印している魔力には見覚えがあるものだから、余計困惑した。


『精霊王様……?』


『精霊王…?』


『そうか、君は精霊王を知らないよね。必要な知識を分け与えて上げよう。』


そうパトがいうと、この世界の常識が、果てには世界創造の記録までもが頭に流れてる感覚を彼女は感じた。


『…ありがとう。パト様。主様。』


『いいんだよ、僕が生み出したんだし。これくらいは朝飯前さ。』


パトは少し悩むと、


『君の名前はシヲだ。死を導く僕が初めて作った高位精霊だ。シヲ、導く。シヲを導く。どう?気に入ったかな?』


『うん、ありがとう。それと…』


『記憶を探したいんでしょ?いいよ、僕も精霊王様に聞いといてあげる。シヲも外界を歩いて何か思い出すか探しておいで。』


『ありがとう、主様。』


そう言って彼女は、導かれるままに、冥界門へ向かった。白き死を司る精霊、シヲは。



____________________________________


私は、シヲ。シヲ。

自分にそう言い聞かせながら、冥界門へ向かっていく。知識を分け与えられた時に、自分を生み出した主様であるパト様の事、世界の精霊の立ち位置、全てがわかった。しかし、自分自身に何かあるはずの記憶がわからない。思い出せない。ときどき聞こえてくる声もあり、シヲは余計困惑していた。ほら、また聞こえてきている。


『頭痛ーー!?何すんだあの爽やか僕っ子ーー!?急に知識とか記憶とか流れてきたんだけどー!?』


そう、この声だ。静かになったと思ったら急に聞こえてくる。


『ぐへへー、でもこの子可愛いなぁー!』


その言葉を聞いた瞬間、背筋がぞくっとした。なんだこの気配は。死の高位精霊の私がすごく身の危機を感じた。そんな気がする。どうにか追い出せないか。


そう考えながら頭の中を意識して声を出してみる。


「あ、あー」


失敗した。頭の中の声に対して喋ろうと思ったのに、物質世界で声が出てしまった。ならばもう一度やってみるだけ。


(集中、集中……)


『およ?どうしたんだいアルビノっ子?早く進もうよー、って聞こえるわけないか〜、残念。』


『うるさい。ずっと聞こえてる。』


『ほぇぇえー!?え?誰?どなた!?』


『貴方がずっと一人で語りかけてる相手。』


『え!?アルビノっ子ちゃん!?』


そのアルビノっ子とはなんだろうか、切実にやめてほしい。そう思うシヲ。


『アルビノっ子じゃない。シヲ。』


『シヲってあれほんとに名前だったんだ〜…で、シヲちゃんどうしたの?』


『貴方の声がうるさい。出てって。』


『およよ〜、シンプルに拒絶されちゃったし、出てこうかなーとは思うんだけどねぇ』


『どうしたの?』


『いやね、でてけないの。私、貴方の魂の奥底に固定されてるみたい。』


『え?』


『後さらにね、私も記憶がない。記憶喪失仲間。あーゆーおーけー?』


『よくない。』


シヲは考えた。この頭の中にいる声は、自分の魂の奥底に固定されていて、さらに自分と同じく記憶がない。そして自分すら知らない言葉を一つ使った。アルビノってなんだろう?


『貴方、名前は?』


シヲはとりあえず尋ねた。


『んー?名前?えとねー、&#/@!……あれ?』


『どうしたの?』


『名前が、言えない。』


なんとなくそんな気はしていたシヲだった。ならばと思い提案する。


『イザナって、呼んでいい?』


『およ?シヲちゃん、どう言う意味だい?』


『貴方が私の魂の一部なのは理解した。なら、これから一緒に過ごすことになるなら、名前がいる。』


『イザナの意味は?』


『死を、誘う。シヲと、イザナ。』


『いいねぇ!お姉ちゃん気に入ったよ!シヲちゃん!』


『…お姉ちゃん?』


『私はシヲちゃんの意識が生まれる前に意識ができたからね!』


シヲは何故かドヤ顔をしているであろうイザナを易々と想像できた。実際の顔は知らないが。イラっとしたので、精神世界で何かがいそうな所を頭の中で叩いてみる。


『痛!?何するのシヲちゃん!?』


できてしまった。


『うるさい。早く行く。』


『あーんシヲちゃんが冷たーい!』


そんな馬鹿な会話をしながら、私達は冥界門を開けた。


____________________________________


その日、人間界では激震が走った。何故なら、冥界門が百年ぶりに開いたからである。百年前に冥界門が開いた時は、死の大精霊が魂の研究をした国を滅ぼしに出てきた時だ。その後からは、冥界門が開いたらすぐ感知できる様に、周りに砦を作っていたのである。


「一番隊!急ぎ冥界門付近へ何が出てきたか確認しに行け!大精霊ならすぐに国へ連絡、高位精霊、精霊なら一度こちらに連絡をいれた後国に連絡をしろ!二番隊!後方にある砦も気づいているはずだが!一応連絡しておけ!他の隊は戦闘準備をしろ!」


シヲは、早速問題に直面しようとしていた。



____________________________________


お読みいただきありがとうございます!作者の甘茶です。趣味で書き始めたなろうですが、気に入ったならブックマーク、⭐︎をお願いします。週一、二投稿を目指します。

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