『虚空の先へ』~世界永遠平和のためのたった一つの冴えたやり方~

空花凪紗~永劫涅槃=虚空の先へ~

第1話 少女が降る日

東神奈川大震災、通称『神災』から2年が経った。震源地とされる東神奈川の旧横須賀市、及びその周囲は放射線による汚染により立ち入り禁止だった。だが、政府から派遣された者たちは防護服を着て復興に励んでいた。


僕はその神災で両親を亡くしていた。両親の働いていた研究施設が、まさしく震源地の真上だったのだ。今日は両親のお墓参りにやってきた。防護服を着て、両親の働いていた研究施設、ICEPY『アイスピー』のあった場所へ向かう。


「緊張しているかね」

「はい。この防護服なしでは放射線汚染で死んでしまうんですから」


話しかけて来たのは両親と共に研究していた榊原さんだ。彼は僕を養子として養ってくれている。


「今日はあれから2年だね」

「そうですね。あっという間です」

「当時は中学三年生だった君ももう高校2年生か。時が流れるのは早いよ。さて、そろそろだ」


榊原さんはゲートの前に立つと、首から下げたICカードをカードリーダーにあてて扉を開けた。その先には花々が咲き誇る楽園のような場所が広がっていた。僕は思わず目を見張る。


「これは?」

「フリージアという花だよ。花言葉は確か……」

「親愛の情、友情、感謝です」

「そうだった。何故かこの花が災害後に咲き始めてね、美しい景色だからこのままにしているんだよ」

「そうなんですか」

「うん。さぁ、歩こうか」


僕達は震源地の中心へと歩いていく。フリージアという花々を踏みながら、景色に見とれて。その先に無数の墓が建てられていた。白い十字架の墓が。


「さぁ、祈ろうか」

「はい。ルイスの導きよ、葬送の詩を送ります」


『この地に眠る親友たちへ、安らかに眠れ』


その墓たちの先には柵を超えて何かがあった。ブラックホールのように空間を淀ませている黒い何かがあった。僕は思わず榊原さんに聞いた。


「あれは?」

「あれは虚空残響というものだよ。素粒子について研究していた最中に地震があったからね、その研究の副産物のような物だよ」

「そうなんですね。とても美しい……」

「さぁ、車に戻ろうか」

「あ、はい。あ、いえ……。もう少しここにいます」

「そうか。出る時はカード必要ないから、車で待ってる」

「分かりました。すぐ行きますから」


榊原さんは墓地から去っていった。僕は虚空残響に見とれてしまって、柵にしがみつく。あれはブラックホールなのではないか?


虚空残響なんて聞いたこともない。高校は理系で物理化学選択だから多少素粒子のこと、ブラックホールのことは理解している。あの虚空残響が何故震源地にあるのか。もしかして東神奈川大震災は研究のせいで起きたのか?


僕は虚空残響に惹かれた。触れてみたい、と。だから僕は柵をよじ登って虚空残響へ歩いた。その時だった。空から音がした。何かが落ちてくる。光と音がだんだん近づいてくる。そしてそれは虚空残響へと吸い込まれるように落下した。


「あ!」


僕は爆風に立っていられなくなって手を地面につく。何が起こった?


そこには近未来的なカプセルがあって、その中で一人の少女が眠っていた。虚空残響は消え去り、その少女が目を覚ます。


「ここは?」

「あなた、何者ですか?」

「私はルイス・ミュウ・クリスタル。あなたは?」

「ルイスって女神の名前じゃ? 僕は涼。榊原涼」

「そう、涼。それより何故そのような格好なのですか?」

「ここが放射線で汚染されているからですよ」

「ここが? 失礼ですが、ここには放射線は残ってません。というよりも放射線汚染はありませんよ」

「な、何を根拠に?」

「この帰還ロケットが空いたということは人が生存できる環境にあるということなの。つまり放射線汚染はないわ」

「そんなはずは……」

「涼、あなたに私は興味がある。私を連れてってちょうだい」

「え、でも。急に知らない人を連れてくなんて」

「だめ? なら言い方を変えるわ。私は真理を知っている。あなたは真理に興味は無い?」


ルイスと名乗った女は僕の元まで来て僕の目を覗き込んだ。その瞳はあまりにも美しく、だが、光を失っていた。だがその暗い瞳の中で星が瞬いた気がした。


「盲目なの?」

「少しの光は写すわ」

「そうなんだ」

「あなたの目、真理を知りたい瞳ね。いいわ、真理を教えてあげる」


そして、少女は語る。この世の真理を。


「だとしたら、もしその話が本当なら、世界はもう時期終わる、のか?」

「そうよ。世界は終わる。でもまた始まるのよ。円環の宇宙、螺旋の宇宙。畢竟、ループしているの」


彼女が語ったのはこの世界が四つの虚空石と呼ばれる石の投影に過ぎないということ。四つの虚空石は古に別れ、またひとつに戻るということだった。そして、その虚空石が地球にある。またルイスと名乗った少女が首にかけているペンダントの石が他でもない虚空石と呼ばれるものだと言うのだ。


「地球に虚空石があるの?」

「ええ。きっと受肉してるわ」

「受肉?」

「虚空石はね、人の心の中に溶け込むの。そうなると本人にしか分からないけどね。その虚空石過去と私の持つ虚空石未来を合わせることで時間が止まる。いいえ、時間のトーラスが閉じるのよ」

「トーラスが閉じる?」

「ええ。それよりお腹すいたわ、何か食べたいのだけれど」

「榊原さんがなんて言うかな」

「連れてってよ、外に」

「うーん。わかった。でも、その服目立つね」


ルイスを名乗る少女は神秘的な格好をしていた。まるで神話の女神ルイスのように。


「じゃあ後で服を買ってちょうだい」

「いいけどさ」


そんなに話をしていると、榊原さんの待つ車までたどり着いた。榊原さんは物珍しそうにルイスを見た。


「誰だい?」

「ルイスよ。あなた方の言う女神」

「もしかして、君は予言の」

「そうね。きっと地球にあるルイス教は私の再臨を予言しているわ。だってノアの方舟に乗って地球から脱出したのが他でもない、私なんだもの」

「」

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