第3話 天使の逃避行②
空を見上げると、莉愛がある程度高度を上げたところで、街並みの方に目を向けた。莉愛はしばらく黙ってそのまま景色を見つめていたが、ふと彼女が口を開いた。
「この街、すごく変わってしまったわね。」
莉愛の声色に僕は寂しさを感じて、莉愛が見つめている街並みに視線を向けた。空から見下ろすと、この街は砂漠の中にひっそりと存在していた。古城を中心に、いくつかの建物が円形に配置されている。ただ、建物はどれも古びていて、無機質な印象を与えていた。街の中には緑が全く見当たらない。まるで自然の恵みを忘れたような、どこか寂しげな風景だった。
さらに目を凝らすと、かつて川があったであろう痕跡が街を横断していた。しかし、今ではその川は枯れ果てていて、水の流れる音などは全く聞こえない。乾ききった土と石が無機質に広がっているだけだった。
「よし。」
莉愛は静かに言い、街から離れる方向に飛んで行こうとした。僕はその行動に驚き、思わず叫んだ。
「莉愛さん、待ってくださいよ!なんで街から離れようとするんですか!」
しかし、莉愛は僕の質問を無視して飛び続けた。いつものドMな僕なら、無視されてちょっと興奮して、嬉しくなるところだ。でも今は、このおかしな状況がまったく理解できないから、そんなこと言ってる場合じゃない。
疑問が頭の中で次々と湧き上がる。なんでこんなことになっているのか、ここはどこなのか、警報は一体何だったのか。それらの答えを求めて、僕は矢継ぎ早に質問を口にした。
「というか、ここはどこなんですか?さっきの警報は何だったんですか!」
最初、莉愛は僕の質問を無視し続けた。彼女は無言で、ただ空を見つめながらどんどんと先に進んでいた。でも、僕はしつこくそのまま質問を続けた。
すると、ようやく莉愛が軽蔑するように太ももにしがみつく僕を見て、ため息をついて言った。
「ああもう!ここは天界!そして、私はここの天使なの!」
その答えを聞いた瞬間、僕は衝撃を受けた。先ほど見たイメージとはまるで違う、荒れ果てた場所が『天界』?僕は信じられず、思わず口をついて出た。
「こんな荒れ果てたところが…?」
その言葉をかけた瞬間、後ろから突如として速い速度で何かが飛んできた。まるで猛禽のような速さで、すぐ近くに迫るその影を見て、思わず背筋が凍る。音もなく、その存在は空気を切り裂いて僕たちに向かって来た。
「止まりなさい!止まらなければ打ちます!」
その声の主は羽根が生えていて、莉愛と同じく白のベールをまとっていて、そして莉愛と違って胸元がたわわな天使であった。けれどもその見た目に反して飛ぶ速度はまるでジェット機のように早く、また声もかわいらしい女性の声ではあるのに、とても冷徹で、恐怖をもたらすような響きを持っていた。
警告は2,3度発せられた。しかし、莉愛はそのどれも無視して前に進んだ。僕はそ警告の威圧に負けて、心の中で何度も莉愛に止まってほしいと思った。でも、莉愛はまるで決意が固いかのように、さらに速度を上げて飛んでいった。
その莉愛の態度に降伏を諦めたのか、天使たちが一斉に弓矢を取り出し、僕たちに向けて放とうとしてきた。僕が気づいて、莉愛さんに伝えようとしたが、天使たちの弓を射る速度はすさまじく、そのときにはすでに矢は放たれていた。
矢が風を切る音が耳に響き、僕の心臓が高鳴る。莉愛は反応が早く、弓矢を次々に避けていった。でも、その動きがあまりにも速すぎて、僕の目にはほとんどその軌道が見えない。
そして、どんなに避けても、すべてが回避できるわけではない。弓矢のうちの一本が、僕の顔のほっぺたをかすめた。その瞬間、冷たい痛みが走り、顔がヒリヒリする。僕は驚きと恐怖で身体が震えて、思わず大声を上げてしまった。
「うわぁぁぁ!」
死ぬかもしれないという恐怖が満ちるなか、僕は莉愛に向かって叫んだ。
「もう無理ですよ、降参しましょう!」
僕はそれが最善だと思った。しかし、僕が顔を覗き込むと、なぜか莉愛は笑っていて、この逃走を楽しんでいるかのようだった。
僕は、莉愛さんってこういう人だわって思いつつも、降参してくれないという事実にあぁ僕の人生、ここで終わったと絶望した。
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