つばめ

 道端、水面みなもに転んだら、静寂しじまがなって目を覚ます。

 ここは、どこだろう。

 上の青空はくすんで、夢より怪しい色をしている。雲はひとつもないけれど、それが返って暗いように感じた。下を見ると、足元にめだかが一匹泳いで、滑らかにそこらの木や柱を巻いて、どこへいくのでもなく、ただぐるぐるとうろついている。そのうちにめだかの大群が右奥に映ると、足元のめだかはするっと左のビルを抜けて、暗い青の先に見えなくなってしまった。ずいぶん遠くのメダカの大群は、やがて弾けて散らかった。

 とりあえず、歩こうか。

 周りを見渡すと、魚があちこち飛んでいて、人間はいなかった。人間だけでなく、動物、虫などもみていない。

 ここは、海の中なんだろうか。

 歩いて百を数えないうちに、正面から大きな魚がゆっくりとこちらに向かってきた。近づいてくるうちに、それが鮫だとわかった。鮫は二歩ほどの距離を残して止まると、そのままこちらを向いて、静かに見つめている。しばらくすると、ふっと後ろを向いて、うえのほうに飛んでいった。鮫がいなくなったので、歩き続けた。

 歩いて、歩いて、歩いた。

 目的地は決めていないけど。

 何も、探していないけど。

 暗いとも、明るいともつかない虚ろが匂って、はりぼてみたいな青空の奇異もとうに気にならなくなって、重い浮遊感と妙な一体感に挟まれた。

 もう、いいか。

 とっ、とっ、とっ。

 少しの助走をつけてとびあがると、身体は宙に浮いて、ほんのりと空に近づいていく。映る青空は、もう、鮮やかになっていて、いつかの怪しさの感じはすっかりなくなっていた。

 浮いて、少し経つと、周りから魚が寄ってきた。魚たちは近くまできて、とまることなくそのまま肉に喰いついた。すぐにいろんな魚がやってきて、後に続いた。魚に囲まれて、空が見えなくなる。視界がまっくろになっていくなかで、ねむるまえにきこえたのは、甲高いクジラの鳴き声だった。

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つばめ @kakakakakakakklpl

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