肆 実も花も
信虎率いる武田軍7千は躑躅ヶ崎館から東進し、
密偵からの情報によれば、
(栗原勢が大井や今井の連合軍と合流されると厄介だ。そうなる前に撃破しなければならぬ)
武田信虎の行動は非常に迅速であり、栗原勢が大井勢らと合流する前に待ち伏せの態勢を整えた
一方の栗原信真は信虎が既に待ち伏せているとは夢にも思わず、合流を目指して進軍する
(信達殿や信是殿と合流すれば5千を超える人数になる。これで信虎に一泡吹かせることができるだろう)
栗原信真は合流後の想像を膨らませていたが、それは武田兵の襲撃によって打ち消される
武田軍は陣太鼓や銅鑼を打ち鳴らし、鬨の声を張り上げて栗原勢に突進
突然の襲撃に動揺する栗原兵を次々となぎ倒して進んでいくのは足軽大将の
彼は
彼は非常に勇猛果敢であり、信虎が大禄を以って召し抱えたいと言ったが、
「私は命以外すべてを失い、流浪してきた身です。出仕して戦場に立てる、これ以上の幸せがどこにありましょうや」
と述べて辞退し、わずかな禄と足軽大将という決して高くない身分で出仕した
だが、その剛勇は武田家随一のものであり、虎胤が栗原勢の本陣に迫るとその戦いざまを見ていた敵兵は戦わずして逃亡
栗原信真もまた彼の勇猛な突進におののき、栗原氏館へと逃げる
「追撃じゃーッ」
信虎の号令により武田軍は栗原勢を追撃
原虎胤もその最前線にて馬を走らせたが、その途中でうずくまっている武将を発見する
「おい、大丈夫か」
虎胤が声を掛けると足に傷を負った彼は栗原軍の武将で、
「わしは
栗原信真の一族のようであった
「わしは原虎胤だ」
虎胤が名乗ると信友はビクッと身体を震わせて、
「くっ、このような身体では戦えぬ。首を持っていけ」
と無念そうにしながらも斬首を求めた
だが虎胤は、
「安心しな。わしは手負いの者の首を取るような武将じゃねぇ。肩を貸すから館まで送り届けてやる」
と言って、半ば強制的に肩に乗せると馬を置いて徒歩で栗原氏館に向かう
途中、彼を追い抜こうとする味方がいると、
「ちょっと待ってやってくれぬか」
そう声を掛けて味方を制し、敵将を肩に乗せたまま単身栗原氏館の門前に達した
館を護衛する兵士らも虎胤の剛勇を残兵から聞いているので手を出せない
異様な緊張感が走る中、虎胤は信友を門の前で降ろし、
「達者でな」
と言葉を残して館の前を去る
その後、武田軍が館に迫ると、逃げ帰っていた栗原信真は門を開いて降伏
栗原家は再び武田家に従ったが、その際信虎本陣に出向いた信真が去り際に虎胤と鉢合わせする
「虎胤殿。一族の信友を助けてくださり感謝しています」
信真が謝意を述べると、虎胤は不器用な笑いを見せて、
「武士として当たり前のことをしたまでだ」
という言葉を残し、去っていった
一連の話を伝え聞いた信虎は虎胤を、
「実も花もある剛勇だ」
と評し、ある一種の憧れに近いものを抱いた
こうして栗原勢を降伏させた武田信虎は大井・今井連合軍が布陣する
これから起こる今諏訪の戦いではもう一人の流浪武士が活躍するのであった―
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