第5話

校舎に入った頃には、雨は本降りになっていた。とぼとぼ歩いたから、小旗くんは濡れている。



桜川さくらかわ、すっげー濡れちゃってんね」


「走ろうって言ったのになあ」


「言ってないよ。急がないのか聞いてきたけど」


「ニュアンス的にはさあ、走ろうってことだったの、に…?」



小旗くんが着ていたパーカーを脱いだ。さらりと脱いだ。


それでわたしの濡れた髪をわしゃわしゃと拭き始めたから、びっくりして後ろによろめいた。



「な、なにを、」


「風邪ひかせたくないからさ」



くっそう。さらりと、かっこよすぎる。くやしいくらいに。



「じゃ、じゃあ小旗くんは、わたしのを使って」



負けられない、と張り合うようにカーディガンのボタンに手をかける。


あれ、上手く外せない。


ちょっと指先が震えてるのが見えた。恥ずかしくなって手を止めると、小旗くんが代わりに外しはじめた。



きみの指先はなんてことするんだ。



「なんかこのまま襲いたくなってきた」


「えっ、こ、こ、こんなところでは嫌だよ!」



下駄箱が古くさいし、湿っぽいもん。

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