第11話

⭐︎



「タカナシ ユウです」



騒がしい教室には似つかわしくない小さな声でそのオトは囁かれた。


入学式後の自己紹介なのに自分のことを呼ばれたと思い顔を上げると、左ななめ前にその声の主はいた。右隣りの友達が同姓同名をからかうように背中を叩いてくる。



高校1年の春、高梨と出会った。


それなのにまともに会話をしたのが1年半後の、しかも2年目も同じクラスなのに教室じゃなくて廃墟の遊園地って。そんなことってあまりないと思う。


だけど本当のことを言うと、きみのことは気になっていたんだ。



松木たちのノートを書いてあげるのは優しいとかそういうのもあるけど、それだけじゃない。



「えー!優、どうしてボタン付いてるの!?」


「ちょ、」



頭の中でうわさをしていると本人が登場した。今日も高梨にノートを預けたその足でおれの席にやってくる。


ブレザーのボタンが元通りになっているのを見て引っ掴んできた。また取れるんじゃないかと思って身を乗り出してきたその体を押し返し、ボタンから手を離させる。


顔を赤らめた松木が「なんだあ」と残念そうなふりをした声で言う。



「なんだあじゃねえよ。もう予備ないんだから取るなよ」


「はあい。あれ、予備なんてもらってたっけ」


「おれは持ってなかったけど人からもらったからあるんじゃねえの」



高梨のほうを少し見ると、しなやかに伸びた髪と背筋だけが見えた。ノートに集中しているらしい。


そりゃ5人分書くなんてけっこうな時間がかかるよな。昨日は教科も多かったし。

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