第10話

目をつぶりたくなったけど、小鳥遊くんが安心したように息をついたから逃げなかった。逃げたくないと思った。




「小鳥遊くんは大丈夫だよ。どんなでもきみでもきっとみんな好いてくれるから」



だからこの場所だけじゃなくてもいいの。


わたしにだけじゃなくてもいいの。




今学校にいるのがくるしいならもっと周りを見て。小鳥遊くんの周りには、心のどこかににきみが存在できる場所を持つ人がたくさんいる。


それなのにきみは、色素の抜けた髪をそっとわたしの肩にあずけて。




「おれのほうが、高梨を好きだよ」




中毒になりそうな甘い言葉で、わたしの足をこの場所に縫い付ける。



こんな風に話せる人、わたしには小鳥遊くんしかいないけど、小鳥遊くんはそうじゃない。


そのことに気づいていないだけで、本当だったらきみという人には、わたしもこの場所も必要ない。


だからこんなわたしを好きなんて、そんな錯覚、言わないで。



「なんで泣きそうになってんの?」



戸惑った声で言われて、自分の表情に初めて気づいた。人と付き合うことが下手くそな自分。



「感動してるんだよ…」



だから本当は涙の理由に嘘をつきたいのに、うまくいかない。



「なんだよそれ。高梨ってけっこうアホなこと言うよな」


「耐性がないんだからしょうがないじゃん」


「両想いだ」



屈託のない笑顔をして、きみが言う。


なんて甘くて、残酷なこと。


うれしいよ。今まで生きてきた中で、今小鳥遊くんから言われた「好きだ」という言葉が一番。

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