第2話



高梨由宇は今日も教室の隅っこでとある女子グループのノートに昨日の授業分の内容を書き写している。


あれがあいつの、怒涛の学校生活の中の一番最初の仕事。毎朝の出来事にクラスメイトはその異常をただの景色のように思っていることは、おれも気づいていた。


だけど高梨由宇は、おれと出会ってからも、助けを求めることはしない。



横をすれ違う時に見えたあいつが書く他人のノートには、要点はピンク・丸っこいけど綺麗な線の字・テストに出る合図に黄緑のアンダーラインが引かれていた。


バカなやつ。そう心で毒づきながらも、それがあいつの生き方なんだと受け入れている自分がいる。



今おれの周りにいる女子たち。


あのノートの持ち主だ。5人くらい。みんな同じような髪色と化粧をして同じ香りを匂わせて、くだらない。くだらないけど、そんなものでさえ手放せないで、あいつがされていることに気づいていながらも何もしないでいるおれの方がもっとくだらない。



このクラスで、いや、この世界で

高梨由宇だけが、ただ一人純粋で、儚かった。強かった。



なあ、高梨。高梨 由宇たかなし ゆう


苗字も名前も同じオトでできたおれたち。



あんな街外れの、もう閉鎖された廃墟の遊園地で出会うなんて、不覚すぎて特別なことのように思えてくる。



おれ、夢のようなあの数時間のために、今は生きてる。

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