この先で夢が覚めたとして、

第1話



小鳥遊くんは今日もよくモテている。


友達に囲まれて、笑っている。その姿を見て女の子はみんな甘いスイーツを食べた後のような表情をするし、男の子はみんな楽しそうにはしゃぎはじめる。


小鳥遊くんはその中心で、いわば部屋の電気のような存在。



だけどみんな知らない。


彼が放課後、どんな顔をするのか。



あれは、冬から春に季節が変わるときに流れる曖昧な温度の空気に似ていた。ぼんやりしたビジョン。だけど、何かを新しくしたい。本当は自分を誤魔化したくない。そんな気持ちが含まれてごちゃまぜになって苦しんでいるような顔。


そんな顔のままで、彼は言ってくれたんだ。



「ここで高梨と会ってる時が、いちばん楽しい」と。



その気持ちだけで、今まで知らなかった世界の光が輝きだした。


きっとあの時のわたしは今彼の周りにいる女の子のようにスイーツ後の柔らかな表情に似ていたと思う。本当は甘いものよりも韓国系の辛さが好きなんだけど。



ねえ、小鳥遊くん。小鳥遊 優たかなし ゆうくん。



苗字も名前も同じオトでできたわたしたち。


あんな街外れの壊れた遊園地で出会っちゃうなんて、もう、運命だったんだと思ってもいいかな。



わたし、あの夢のような数時間のために、今は生きてる。

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