畏怖の中、切望
第2話
1◇
あれは、わたしだ。
全クラスの下駄箱が設置されている玄関でローファーからうわばきに履き替えて。
顔を上げて廊下に出た瞬間、目の前の壁に掛けられた大きな絵を見てぼんやりと思った。
そこに描かれているのが何なのか自分でもはっきりと解る。
写真のように正確で、だけど線はぼやけたあたしの笑顔が水彩画で上手に描かれていた。
…え。でもなんで!?
食い入るように、でも触れないくらいの距離を保って見ているとその絵が少し陰った。
振り向くと中学から一緒のクラスメイト、
「これつばめじゃん。なんで?」
「なんで、なんだろ…!?」
「断りとかなかったの? これ描いたの絶対あの天才じゃん。知り合い…ではないよな」
心当たりはなかったけど念のため自分の学校生活を思い返してみた。でもやっぱりどの場面を切り取ってみても、あの天才と言葉を交わすどころか視線すら合ったことがない。そもそも榛名以外と会話をした記憶がないくらいだ。
あの天才とわたしは生きてる世界が違う。
透明に近い黄色、淡いピンク、晴れ空のような水色、穏やかなみどり。誰がどう見ても綺麗な作品。
ぼやけた輪郭。
わたしが知っている限り、あの天才が人物を描いたのは初めて。
それが、なんで、なんの関わりもないのに…?
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