第2話 三姉妹

セリアお姉ちゃんの部屋で、彼女の咳が再び聞こえた。

「……けほっ、けほっ。」

その音が夜の静けさに響く中、私はベッドの中でじっと様子を見ていた。


「お姉ちゃん、大丈夫?」

心配になって声をかけたけれど、セリアお姉ちゃんはかすかに微笑んで「平気よ」と答えた。それでも、咳が治まらない様子に胸がざわつく。


この原因をどうにかして見つけなきゃ。

そんな思いを抱えたまま、私はいつの間にか眠りに落ちてしまった。


目を覚ますと、そこは現実世界の私の部屋だった。

「帰ってきた……。」

ふわふわの布団の感触と、見慣れた天井に少しだけホッとしながら、私はベッドから起き上がる。


「でも、セリアお姉ちゃんの咳、あれは絶対に普通じゃない……。」

その謎が頭から離れないまま、制服に着替えてリビングへ向かった。


ここが現実世界の私の家族。ルミナス王国で「第三王女コハル」として生きる時もあるけれど、この世界では私は普通の高校生、小春。

家族構成は、私と姉二人、そしてちょっと忙しそうな両親。だけど、ここでの生活はとても大切で、異世界に行っている間も、この家族のことをよく思い出す。


長女の沙織お姉ちゃんは、私たちの中で一番しっかり者。弁護士として働いていて、いつも忙しそうだけど、家族のことを大事にしてくれる。


例えば、朝ごはんを一緒に食べているとき、必ず私に声をかけてくれる。

「小春、学校で何かあったらすぐ話してね。」とか、「ちゃんと食べてから行きなさいよ。」なんて、まるでお母さんみたい。

でも、お姉ちゃん自身はちゃんとご飯を食べる時間もないくらい仕事を抱えてるんだよね。


どんなに忙しくても、私や家族を気にかけてくれる沙織お姉ちゃん。私にとって、現実世界での頼れる相談相手だ。


次女の美咲お姉ちゃんは、大学で医学を勉強している。将来はお医者さんになりたいって言ってて、本当に努力家。

勉強している姿を見ると、「私も頑張らなきゃなぁ……」って思うけど、どうしても気合が入らないのが私らしいところ。


それに、美咲お姉ちゃんは私の話をちゃんと聞いてくれる。

「ねえ、美咲お姉ちゃん。喉が痛くないのに咳が出るって、何が原因だと思う?」って聞くと、すぐに「ストレスとかアレルギーかもね」って答えてくれたり、専門用語を交えて説明してくれる。


でも、普段はおちゃめでちょっと抜けてるところもあるんだよね。私がびっくりするような話をすると、「そうなんだ~!」って目をキラキラさせてくれるから、なんだか楽しくなっちゃう。


お父さんとお母さんは、どちらも仕事が忙しくて家にいる時間が少ない。でも、休日には一緒に外食をしたり、家で映画を見たりして、ちゃんと家族の時間を作ってくれる。


お母さんは細かいことに気が付く人で、部屋が少しでも散らかっているとすぐに注意してくる。「小春、机の上片付けたら?」ってね。

でも、お料理が得意で、特にお弁当にはいつも愛情が詰まってるから、なんだかんだで感謝してる。


お父さんは少し無口だけど、私たち姉妹のことをすごく大事にしてくれてる。たまにしか会えないけど、一緒にいると安心感があるんだよね。


私、小春はこの家族の中では「普通」な存在。

沙織お姉ちゃんみたいに仕事をバリバリこなしてるわけでも、美咲お姉ちゃんみたいに一生懸命勉強してるわけでもない。ただの高校生で、趣味といえば読書くらい。


でも、この普通の日常がすごく大事だって思うようになったのは、異世界に行くようになってからかもしれない。

ここでの生活があるから、異世界で「第三王女」として頑張れる。そう思えるのは、この家族のおかげなんだよね。


リビングでは、沙織お姉ちゃんがいつものように朝食を準備している。彼女は弁護士として忙しいけれど、朝は家族と顔を合わせる時間を大切にしている人だ。


「おはよう、小春。顔色悪いね、何かあった?」

沙織お姉ちゃんは、私の顔をじっと見て言った。


「えっと……ちょっと相談したいことがあって。」

私は椅子に座り、朝ごはんを前に話し始めた。


「お薬がない場所で先を止めるにはどうするの?」

「小春はお医者さんに興味を持ったのかな?」


蜂蜜やハーブが咳止めに効果的だという話を聞いて、頭の中で早速その情報を異世界にどう活かすか考え始める。


「ありがとう、お姉ちゃん。本当に助かったよ。」

私は沙織お姉ちゃんに感謝しつつ、次に異世界に戻ったときの準備を進めることにした。


その夜、布団に入った私は、沙織お姉ちゃんから聞いたアドバイスを胸に、眠りについた。


目を覚ますと、そこはもうルミナス王国の私の部屋だった。


「……戻ってきた。」

カーテンの向こうから柔らかな朝の光が差し込んでいる。私がいるこの世界では、眠るたびに別の現実が始まる。それがもう当たり前になってきた。


でも、今日はやることがはっきりしている。セリアお姉ちゃんの咳の原因を突き止めるため、早速動き出すつもりだった。


セリアお姉ちゃんの部屋に向かうと、彼女は少し顔色が悪い様子でベッドに座っていた。


「コハル、また来たの?」

セリアお姉ちゃんは小さく笑いながら私を見た。


「うん、お姉ちゃんの咳の原因を探りたくて。今日はちょっといいアイデアがあるんだ。」


「いいアイデア?」

セリアお姉ちゃんは首をかしげる。


「お姉ちゃん、蜂蜜とかハーブを試したことある?」


「蜂蜜……?そんなものが咳に効くの?」


私は沙織お姉ちゃんから聞いたことをそのまま話した。


「蜂蜜は喉を潤して、炎症を抑えるのにすごく良いんだって。あと、タイムっていうハーブとか、カモミールみたいな植物も咳止めに役立つらしいよ。」


「ハーブ……それに似た植物なら、確か王宮の薬草園にあったはずだわ。」


セリアお姉ちゃんは少し考え込んでから、私に目を向けた。

「でも、そんなものが本当に効くのかしら?」


「試してみる価値はあると思う!お姉ちゃんの咳が少しでも楽になるなら、やってみようよ。」


セリアお姉ちゃんは小さく頷いた。

「……わかったわ。じゃあ、薬草園に行ってみましょう。」


薬草園は王宮の裏手にある広い庭園で、さまざまな植物が整然と育てられている。

私たちは庭師に案内されながら、ハーブに似た植物やカモミールに近い花を探した。


庭師が指差したのは、細かい葉をつけた緑色の植物だった。


「本当にあった!」

私はその植物を見て興奮する。


その場でそれらの植物をいくつか摘み、蜂蜜と一緒に調合してみることにした。

温かいお湯で煎じたお茶は、甘い香りが広がってとても飲みやすそうだ。


「どうぞ、セリアお姉ちゃん。試してみて。」


セリアお姉ちゃんは私の差し出したカップを受け取り、一口飲んだ。


「……思ったよりも美味しいわね。」

そう言って、彼女はもう一口飲む。その表情が少し和らいでいるように見えた。


「これで、夜の咳が楽になるといいな。」


「ありがとう、コハル。あなたの発想はいつも私たちが考えないことばかりね。」


私は少し照れ笑いを浮かべた。

「いやいや、たまたまだよ。でも、これでお姉ちゃんの咳が良くなるといいな。」


その夜、セリアお姉ちゃんの咳は、いつもよりずっと少なかった。

それを見た私は、小さな安堵の息を吐いた。


異世界に来るたびに思うけど、私はただの「第三王女」かもしれない。何の特別な力もない。

だけど、こうやって誰かのためにできることを見つけるたび、自分の役割が少しだけ見えてくる気がする。


「お姉ちゃん、絶対にもっと良くするからね。」

私はそう心の中で誓いながら、第三王女ライフを楽しんでいた。

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第三者女王ですが何ですか? わたなべよしみ @reno2357

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