第3話 地球を守れ ○

 ここはやはりメタルアントの巣のようで、僕と色違いのメタルアントがうようよ歩いている。しかし、今の僕は彼らの仲間とみなされているようで襲われはしない。


 さて、状況を整理してみようか。


 感覚的にここが地球であることは間違いないっぽい。しかし、僕が知っている地球とはだいぶ様子が変わっているようだ。

 魔物はいるし、スキルやステータスはあるし、冒険者らしき存在までいる。まるで異世界みたいだ。この事実を踏まえて考えるに、僕が死んだ後、地球に魔物が現れて人類はスキルや魔法を使えるようになったとしか考えられないんだけど、そんなことあり得るのか?


 それにこの魔物の量、冒険者らしき人達の強さから推察するに、人間達はちょっと押され気味なのかも? ひょっとしてこのままだと、日本は、いや地球は魔物達に乗っ取られてしまうかもしれないとか?


 それは嫌だ。せっかく地球に帰ってきたというのに、その地球が魔物達の巣窟になってしまうなんて許せない。こんな恰好にはなっちゃったけど、僕も地球を守るために戦わねば。


 よし、そのためにはまず強くならなくてはいけない。幸い、ここには魔物がたくさんいるし、今のところ襲われる気配はない。この状況を上手く利用すれば、簡単にレベル上げができるかもしれないぞ。

 まずは奥を目指しながら、一匹で行動するメタルアントを探して不意打ちで倒していこう。たくさんに襲われたらひとたまりもないから、慎重に、慎重に。


 僕はメタルアントの気配を探りながら奥へと進んでいく。


(いた、丁度いいのが見つかったぞ)


 アリの巣のような狭い通路を歩いていると、突き当たりに一匹のメタルアントを見つけた。都合のいいことに、穴を掘り進めているようでこちらに尻を向けている。

 僕はそのメタルアントに近づき、一気に首元に噛みついた。


 ギギギギギギ!


 不意打ちは成功したが、メタルアントは攻撃力に比べ防御力が高い。一撃で首を落とすことができずに、相手が暴れ始めた。くそ、ここで振り落とされるわけにはいかない! 僕は必死に顎に力を入れ、相手を抑え込む。


 グググ……バツン!


 耐えること数十秒。何とか僕ははぐれメタルアントの首を斬ることに成功した。


【スキル アイテムボックスを手に入れました】


 おお、無意識のうちに死骸を収納しようとしたらアイテムボックスのスキルを手に入れた! これはラッキーだ! それに、予想通り経験値を手に入れることができたようだ。

 レベルは上がらなかったが、この調子で倒していけばすぐにでもレベルが上がるだろう。僕は来た道を引き返し別の横道へと進んで行った。



▽▽▽



 あれから、数十体のメタルアントを倒しレベルも結構上がった。それに伴ってステータスも上がっていったから、段々と倒すのが楽になっている。だが、その分得られる経験値も少なくなってるようで、レベルが上がりづらくなってきた。


種族 メタルアント(変異種)

名前 ミスト

ランク G

レベル 9

体力 90/90

魔力 19/19

攻撃力   14

防御力   28

魔法攻撃力 18

魔法防御力 19

敏捷    28


スキル

アイテムボックス New!

思考加速 New!

並列思考 New!

危機察知 New!

再生

魔力回復

痛覚耐性 New!

火耐性 New!


称号

帰還者

同族殺し New!


 不本意ながら、ここでも手に入れちゃいました『同族殺し』……

 僕は同族を殺さねばならぬ運命なのか?


 さてと、数時間かけてこの巣の最奥へと来てしまったようだ。向こうに今までとは違う広々とした空間が広がっており、明らかに女王アリっぽいのが鎮座している。果たして今の僕に勝つことができるのか?

 女王アリの様子をずっと観察していると――


【スキル 鑑定を手に入れました】


 よしよし、狙っていたスキルが手に入ったぞ! 早速鑑定してみるか。


種族 メタルアントクイーン

名前 なし

ランク F

レベル 10

体力 100/100

魔力 0/0

攻撃力   22

防御力   30

魔法攻撃力  0

魔法防御力 10

敏捷    20


スキル

産卵


称号

メタルアントの女王


 うーん、ちょっとまずいな。僕の攻撃力じゃクイーンの防御力を突破できそうにいない。これ以上レベルを上げるのもきつそうだし……狙い目は魔法による攻撃か。何か魔法を使えるようにならないか試してみよう。


 僕はボス部屋からいったん離れて、魔法のスキルを覚えないか試してみた。


(ファイアーボール! ウォーターエッジ! ウインドエッジ! サンダーボール!)


 とりあえず、順番に試しているが特に何も起きない。魔法のスキルを覚えるのはハードルが高いのか?


(ストーンニードル! あっ!? 出た!?)


 【スキル 土魔法を手に入れました】 

 【スキル 無詠唱を手に入れました】


 やったね! 魔法が発動しましたよ! しかも、無詠唱までついてきた。これはありがたい! 

 僕が作りだした細長い円錐状の石が勢いよく飛んでいき、地下迷宮ダンジョンの壁に当たって砕けた。


 しかし、ストーンニードルを一発撃つだけで、魔力の半分ほどを持っていかれてしまった。これじゃあ、二発撃ったら空っぽになっちゃうね。魔力回復のスキルがあるけど、すぐには回復しないだろうし。


 まずは先制攻撃で魔法を放って、後は上手く立ち回りながら時間を稼いで、効果的に魔法を使っていくしかないか。


 よし、魔力が満タンになったらクイーンに挑戦だ!



 僕は再びボス部屋へと戻り、魔力が完全に回復したのを確認してカサカサとボス部屋へと入っていった。


(よしよし、クイーンもまだ僕のことを仲間だと思ってるな。最初の一撃は非常に重要だ。しっかり狙いを決めないとね)


 僕は卵を産んでいるクイーンをよく観察する。身体は大きいが、産卵のためか丁度座っているような恰好で、腹をこちらに折り曲げている。あの腹を狙うか、それとも目を狙うか。


 クイーンが卵を産むとどこからともなくメタルアントがやってきて、その卵をどこかへと運んでいく。クイーンに攻撃を仕掛けたら、あの働きアリも襲ってくるだろうから、タイミングも重要だね。働きアリが部屋を出て少ししてから始めるとしよう。


 あっ、待てよ? いい方法を思いついた。これが上手くいけば少し時間が稼げるかも?


 僕は働きアリが部屋に入ってきたところで、そいつの横に並んで歩きながらストーンニードルをクイーンの腹に目掛けて放った。


 ドシュ!


 しっかりと狙いを定める時間があったおかげで、寸分違わず狙い通りに命中した。クイーンの腹に大きな穴が空き、怒ったクイーンが襲いかかってきた。僕の横を身体一つ分前に出て歩いていたメタルアントに。


 僕はすかさずその場を離れ、クイーンが働きアリに攻撃を加えている間に後ろに回り込み、再度ストーンニードルを腹目掛けて放った。


 ブシャ!


 僕が放ったストーンニードルが腹の傷を更に広げ、中から体液が溢れ出している。クイーンもここで僕が魔法を放ったことに気がついたようで、こちらを振り返り傷ついた腹を引きずりながら迫ってきた。


 しかし、その動きは鈍く僕はちょこまか動き回ることでクイーンの攻撃を回避する。そして、時々やってくる働きアリを先制攻撃で倒しつつ、数分時間を稼いだところで魔力が半分ほど回復した。


(これで終わりだ!)


 体液が流れ出てますます動きが鈍くなったクイーンの正面から、ストーンニードルを顔目掛けて放つ。


 ブチュ!


 目に深々と石の槍が刺さったクイーンは断末魔を上げて、その場に崩れ落ちた。何とか倒すことができた。僕が仲間認定されているのが大きかった。そうでなければ、こんなに上手くはいかなかったはずだ。


 僕がクイーンアントの死骸をアイテムボックスに入れると――


 ゴゴゴゴゴゴ


 地下迷宮ダンジョンが不気味な音を鳴らしながら揺れ始めた。もしやこれは、ボスを倒したことで地下迷宮ダンジョンが崩壊するのでは!?




 壁や天井が崩れ始め、崩壊に巻き込まれると思った瞬間、気がつけば僕は広々とした地面に立っていた。上を見れば空が見える。周囲を見渡せば遠くに壊れた建物が見て取れる。


 なるほど。ボスを倒せば地下迷宮ダンジョンは消滅して、地上へと転移させられるのか。どういう仕組みかわからないけど、なかなか高度な仕掛けだね。


 さて、こっちに来たときは必死に逃げていたから気がつかなかったけど、結構酷いことになってる? ここがどこだからはっきりとはわからないけど、東京の近くだとは思う。


 でも、人は全然いないし、周りの建物は軒並み破壊されている。魔物が侵略してきたせいで、地球人の住む場所が奪われているのではないだろうか?


 これは黙って見過ごすわけにはいかない。せっかく日本に帰ってきたんだ。この国を守らないと。僕はアリの姿ではあるけれど、元日本人としてこの国を魔物の侵略から守ろうと決意した。


 その時――


 キィィィ ガッシャーン!


 何かがぶつかる音がした。その音がした方へ全力で向かうと、一台の車がクモ型の魔物に襲われているのを発見した。車の中にはまだ人がいるようだ。僕は急いでその場に向かう。


 バキバキ!


 車のドアが破壊され、中から三人の人間が転がり出てきた。男の人と女の人。それから女の子が一人。


(えっ!? あれは、オーロラ!?)


 地面に転がった女の子が上げた顔を見て思わず心の中で叫んでしまった。


(いや、違うか。そっくりだけど髪の色が全然違う)


 その女の子は髪こそ黒いが、顔は出遭った頃のオーロラそっくりだった。あまりの衝撃に立ち止まってしまった僕だが、あの顔を見た瞬間守らなくてはならないという気持ちが胸いっぱいに広がった。


(ストーンニードル!)


 僕は女の子のお父さんであろう男性に襲いかかるクモ型の魔物にストーンニードルをお見舞いしてやった。


 幸い、このクモの魔物の魔法防御力はそれほど高くなかったようで、僕のストーンニードルはクモの胴体を突き破って地面に刺さった。


 ピクピクと動くクモ型の魔物にもう一度魔法を放ってトドメを刺す。


【スキル 特殊進化を手に入れました】


 おお!? 今の戦闘でレベルがマックスになったみたいだ! そのおかげで、喉から手が出るほどほしかったスキルを手に入れることができた。このスキルがあれば、もっともっと強くなることができるはずだ! そうすれば、日本を、いや地球を守れるくらい強くなれるかもしれない。


 僕は新たな希望を手に入れて、再度、故郷を守ろうと誓ったのだ。それから、目の前にいるオーロラそっくりな女の子。

 彼女は今、両親と抱き合って無事を喜んでいる。だが、クモの魔物を倒したのが僕だとは気がついていないようだ。もっと近くでオーロラと同じ顔を見たい衝動に駆られたが、今僕が出て行くべきではない。怖がらせるだけだからね。


 三人はひとしきり無事を喜んだ後、ドアが外れた車に再度乗り込み、動くことを確認したらこの場を去って行った。だが、道路もガタガタだし、至る所に建物の残骸が落ちているからそれほど速くは走れないようだ。


 僕はあの家族を守るため、そして人類がどうなっているのかを確認するためにそっと自動車の後をつけた。


(あの家族の無事を見届けたら、安全な場所を見つけて進化しよう)


 帰ってきた地球はとんでもないことになっていたけど、それでも僕はこの故郷を守るために、強くなろうと決意しながら車の後を追いかけるのだった。

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