遺産相続

 幼馴染が不治の病で余命半年らしいので、慌てて病院へ向かった。

「私には遺産どれだけくれますか」

「いや、お前には何も無ぇよ」

「けち」

「他人だろうが」

 取り付く島もない男だったが、話しているうちに何の事は無い、残すような遺産など皆無だという事を知った。この甲斐性無しめ。

 仕方がないので彼の半生を面白おかしく書いて本にして売ってやろう。

 毎日病室に押しかけて物心ついた時から大学受験失敗まで、幅広く隈なく徹底的に聞いて行く。

 そしてようやく本になる枚数に達したので新人賞に応募してみると、あれよあれよといううちに大賞を受賞した。彼の半生は私が思っているよりも面白いものだったらしい。

 彼は印税も賞金も全て私が受け取るように根回ししていた。

 私が著者であり、それ以外には何も無かった。

 百万部越えのベストセラーとなり、幼馴染の五十倍かっこいい俳優が彼の役で映画のアカデミー賞を獲った。

 びっくりするような大金が飛び込んで来た。

 きっと、私が普通に生きていたら目にすることの無い額だ。

 しかし、それを報告する相手はとうにいなくなっていた。

 お金を、全て寄付する。

 私はあなたの遺産が欲しかったのだ。

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