ラブコメがはじまらない
転校生と曲がり角でぶつかったのは、高校二年の九月だった。
私は目覚まし時計をセットし忘れて猛ダッシュをしていて、口にはもちろんイチゴジャムを塗ったトーストを咥えていた。
転校生もよくわからないけどダッシュしていた。
おおかた道に迷っていたのではないだろうか。転校生の宿命だもの。
そして私たちは曲がり角でぶつかる。
転校生は勢いよく吹っ飛び、当たり所が悪く死んだように見えた。
どくどくと頭から流れている血の量を見て、取り返しのつかない事をしてしまったことを瞬時に理解した。
見下ろす私は無傷であった。
幸い登校時間をかなりオーバーしていたので辺りに人けは無かった。
しかし、道路には血が広がっている。掃除をする時間は無い。
私は咥えていたパンをそっと彼の血液の上に置いてみる。
ダメだ、ジャムと言い張るには些か多い。
そもそもそれが成功したら今度は転校生を具と言い張らなくてはならなくなるので、どちらにしろ厳しい。生だし。
私のお腹が鳴った。
パンを血に浸してしまったせいで、朝食を食べ逃したことに気付く。一体私は何をやっているのか。もったいない。
道路の真ん中に転がっているのは邪魔なので、端に寄せようかと思案する。しかし引きずって顔が削れるのもかわいそうだ。ただでさえそんなに彼の鼻は高くない。
救急車を呼んでみようか。そうすれば少なくとも転校生は回収される。でもそうすると私も乗り込むことになってしまうだろう。英語の小テストがあるので、学校を休んでいる暇は無い。
電信柱にはごみの収集日が書いてある。
今日はペットボトルの日らしいのでさすがにちょっと違う。
と、その時、足元で声がした。
「うう……」
なんと、転校生がうっすらと目を開けてこちらを見つめていた!
半ば信じられなかった。この出血でまだ生きているなんて……! なんてしぶといのだろう。
「大丈夫?」
私が訊くと、彼は微笑んだ。
とても優しい表情で、ゆっくりと頷く。
「何が起こったんだ……?」
「…………」
私がどうやって答えようか考えていると、転校生は私の手を軽く触ってきた。
「でも君が無事でよかった……」
「あの……本当に大丈夫……?」
彼はもう一度頷く。
大丈夫なら、ほっといてもまぁいいか……。
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