結城向日葵の分析
※結城向日葵視点
「…わたくしが、こんなの許すわけがないでしょう!…ふざけんなですわ!!!!」
模擬戦場で1人吠える金髪の女を、私は外から冷めた目で見ていた。
彼女は西園寺椿といって、どうやらこの学園…ひいてはこの国のトップである西園寺家の跡取りらしい。
そんな西園寺さんは、あろうことか私の幼馴染に『決闘制度』を利用した。
まぁ多少は彼女の気持ちはわかる。自分の晴れ舞台だと意気込んだ式で、私の幼馴染が寝坊とかいう一般的には最低な理由でぶち壊したんだもの。怒るのもわかる。
けれど、私は彼女に同情するつもりはない。…いや、彼女が容赦なく私の幼馴染を雷で貫いた事で同情する気が微塵も無くなった、と言う方が正しいか。
その能力を見て、その能力を使って息を切らしている彼女を見て、確信した。…やはり、彼女の『1』は偽物だと。
ざわざわと生徒達が騒ぎ出す。悲鳴を上げるものもいる。この場にはどうやら、西園寺さんの本当の能力と、私の幼馴染の実力を見抜けないようなボンクラしかいないらしい。彼らの将来がつくづく心配になる。嘘。彼らの将来なんて微塵も興味ない。
とにかくだ。
…あの女は、最低だ。
私の心の中はその感情で埋め尽くされている、ということ。
「さ、西園寺さん…こ、これ以上はルール違反に…っ!?」
「…まだあなたは試合終了の合図をしてませんわ。ルールにはこう記されているはずです。『どちらかが降参をして、立会人がそれを認めた場合に試合が決する。』…と。」
どうやら西園寺さんは、ルールの穴をつこうとしているらしい。確かに生徒手帳には、彼女の言う通りの事が書かれている。
「…わたくしは、あなたがそれを認めるまでやめませんわ。…わかってますわよね?校長先生。」
「ひ、ひぃぃっ…」
つまるところ、あぁやって審判を買収してしまえば半殺しにするまで相手を痛めつけられるというわけだ。しょうもない理屈。
「
しかし、そんなしょうもない事が通用してしまうお嬢様は、今度は広範囲の電気エネルギーを放出して華恋が居るであろう場所に向けて容赦なくぶつけていた。
土煙がひどくて、華恋の姿は見えない。
どうだろう。他の人からしたら、華恋は死んだように見えるのだろうか。確かに一見すると西園寺さんの能力は派手だから、相当な威力に見えなくもない。特に何もないはずの辺り一体が、能力の余韻で帯電している様子はどこか現実味がないし。…でも、当然それは完全なる見掛け倒し。
しばらくして、土煙が晴れると、ボロボロになった華恋が地面に倒れていた。
それを認めた瞬間か、隣にいた見知らぬ男子生徒が唐突に吐いた。咄嗟に私の能力で私に飛び散る寸前の汚い胃液を防ぐ。けれど匂いまでは防げない。最悪だ。さらにそれに続くように、ぽつぽつと辺りで嘔吐する汚い音が聞こえる。どうやら彼らは華恋が死んだと思っているみたいだった。
私は溜息を吐きながら、『…あの制服はもう着れないわね。おばさん絶対怒るだろうなぁ。』なんて呑気に考えていた。
「…はぁ、はぁ…。むかつく、心の底からむかつく女でしたわ。」
「しゅ、終了!試合終了!!!!!!あぁ、なんて事だ…早く!早く救護班を!」
「…あなたが、あなたが悪いんですわ!この西園寺椿の事を愚弄するから…っ」
肩を大きく揺らして呼吸をする西園寺さんと、心の底から焦ったような声を上げる校長先生。観客達がざわついて、不快だ。
担架でボロボロの華恋が運ばれていくのを見届けて、私はゆっくりと足を動かした。
「…ねぇ。」
目的の場所に着くと、ただ一言。冷たい声を出す。
「…?…あ、あなたは…さっきの女と一緒に居た…」
驚いたように目を丸くする西園寺さん。
よく見れば、顔立ちはかなり整っているのに気づく。勿論、華恋ほどではないけれど。
身長は161cmの私とほぼ変わらないように見える。スタイルもかなりいい。特に細い腰と大きな胸…無いと思いたいけれど、この女を華恋のそばに置くのは少しだけ危険な気がした。
けれど、これからネタバラシをする為には西園寺さんを華恋の元に連れていくしか無い。少しだけ気が進まなくなるけれど、私は腕を前で組むと、西園寺さんを冷めた目で見つめながら唇を開いた。
「…私のことなんてどうでもいいのよ。」
「なんの、用ですの?」
「…あなたの能力って凄く平凡なのね、と思って。」
「…は?」
案の定、私が正直に言ってやれば何が何だかわからないと言うように口をぽかんとさせた間抜け面で私を見つめる西園寺さん。
…最初から、可能性は2つあった。
1つは、西園寺さん自身がその『1』のバッジを買収したか。もう1つは、西園寺家に忖度をして大人達が『1』のバッジを取り付けたか。何も知らない、西園寺さんに。
なるほど。後者だったかと、彼女の反応を見て理解する。
そう思うと少しだけ、同情する気持ちが戻ってくる。可哀想に。本当に何も分からないというような表情の西園寺さん。その姿はまるで西園寺の操り人形。…だけど華恋の為には、私は黙っているわけにはいかなかった。
「…ついてきて。」
私は西園寺さんの手を掴むと、依然として大きく動揺する周りの人々を置いて、華恋の元に歩みを進める。
「ちょ、な、なんなんですの!?というか、さっきの発言はどういう意図で…ぁぁっ!?」
キンキンと煩く抵抗する彼女を黙らせる為に、私の能力を使って彼女の靴裏に少し細工をして足を滑らせてやった。これで、スムーズに運べる。
ごめんなさい西園寺さん。あなたは何も知らない籠の中の小鳥。私が今から現実を教えてあげる。外の世界は残酷なのよ。
華恋の花束 水瀬 @minase_yuri
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