第1章 異星リング接触前夜 〜核戦争とその爪痕〜(2040年~2052年)

 ◎ 核戦争の勃発(2040年〜2042年)


 2040年、世界は破滅の瀬戸際に立たされた。


 資源競争、地政学的対立、技術覇権――長年続いていた緊張がついに爆発し、戦術核が使用された。当初は限定的な軍事衝突にとどまると見られていたが、報復の連鎖が続き、数週間のうちに核戦争は世界規模へと拡大した。


 東京もその標的の一つとなった。


 2041年9月、関東地方に向けて3発の核ミサイルが発射された。防衛システムが1発を迎撃したものの、東京湾上空で爆発した2発の影響により、首都圏は放射線と衝撃波に包まれた。爆風と熱線が都市機能を破壊し、首都は壊滅。生存者の多くが致死量の放射線を浴びた。


 アメリカでは、軍事・経済の要衝であるデンバー、ボルチモアが標的となり、国防中枢と産業基盤が壊滅。ヨーロッパでは、ワルシャワ、フランクフルトが攻撃を受け、EUは実質的に崩壊。中国の武漢、青島も壊滅し、インドのデリーは完全に消滅。中東ではテヘラン、バグダッドが標的となり、政権機能は失われた。


 各国の報復攻撃が連鎖し、最終的に全世界で約8億人が死亡、または致命的な放射線被害を受けた。


 戦争が終結した時、かつての大都市の多くは瓦礫と化し、世界経済は完全に崩壊していた。


 ◎ 核戦争後の人道危機(2042年〜2045年)


 戦争の終結は、決して平和の到来を意味しなかった。


 大気中に舞い上がった塵が太陽光を遮り、「核の冬」と呼ばれる現象が発生。世界の平均気温は急激に低下し、農作物の収穫量が激減。食糧不足が深刻化し、各地で暴動や略奪が発生した。


 放射能汚染は国境を越えて拡散し、世界各地で数千万単位の難民が発生した。


 被害が最も深刻だったのは中東、東欧、南アジアだった。都市機能を喪失した地域では、数百万人が移動を余儀なくされ、医療施設の崩壊と食糧不足が追い打ちをかけた。被曝による健康被害が急増し、急性放射線症や癌の発症率は戦前の数十倍に達した。


 一方、直接的な被害を免れた地域でも経済崩壊の影響は避けられなかった。核戦争により国際貿易網が断絶し、多くの国が食糧やエネルギー供給を失った。各国は経済の自立を急ぎ、内向きの政策を強めたが、それは国際社会の分断をさらに加速させる結果となった。


 ◎ 国際機関の崩壊と新たな秩序(2043年~2050年)


 この戦争は、国際社会の無力さを露呈させた。


 かつて平和維持を目的としていた国際連合(国連)は、戦争を防ぐことができず、2043年に正式に解体。


 代わって設立された「国際平和調停機構(IPMO)」も、各国の不信が原因で機能せず、2048年には事実上崩壊した。


 この混乱の中で、新たな国際的枠組みとして科学者や平和活動家が主導する「地球統一宇宙評議会(EUSC)」が発足。政治ではなく科学技術による国際協力を基盤とするこの組織は、核戦争後の復興と戦争根絶を目標に掲げた。


 当初は限られた影響力しか持たなかったEUSCだったが、2050年には核兵器廃絶の条約を主導し、戦争根絶の流れを作ることに成功した。


 ◎ 世界的な復興競争と新札幌市の台頭(2045年〜2052年)


 戦争が終結すると、各国は急ピッチで復興を進めた。


 アメリカでは、放射能の影響を免れた西海岸地域が新たな経済の中心となり、シアトルやロサンゼルスを中心に復興が進行。ヨーロッパでは、フランスやイタリアが国際金融センターとしての役割を強化し、新たな国際秩序の中核を担おうとしていた。


 日本では、東京が壊滅したことで首都機能が失われた。当初、政府は関西圏への一時移転を進めたが、戦争の影響に加え、温暖化の進行による海面上昇が問題視された。


 もともと政府は2055年に首都移転を予定していたが、戦後の復興政策の一環として10年前倒しされ、2045年に新札幌市への移転が正式決定された。


 新札幌市は、地盤の安定性、水資源の豊富さ、放射能汚染の影響を受けにくい立地が評価され、長期的な首都機能の維持に適すると判断された。


 戦後復興の象徴として、新札幌市は最新のインフラとエネルギー技術を導入し、急速に成長。EUSCの本部の一つが設置され、政治・経済の新たな拠点となっていった。各国もこの流れに追随し、「戦後復興の競争」とも言える状況が生まれた。


 ◎ 2052年——静かなる時代の到来


 戦争が終結して10年。


 ようやく、世界は安定を取り戻しつつあった。


 放射能汚染の影響は依然として残るものの、EUSC主導の復興計画が各地で進行し、環境修復技術の向上によって、ゆっくりとだが再生が始まっていた。


 世界は、ようやく平和を手に入れたかのように思えた。


 だが、人類がまもなく、未知なる存在と接触することになるとは。この時点で誰も予想していなかった。


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