帰り未知

プロジェクト・ハルカ

帰り未知

長い旅をしてきた

もう、どれほど歩いてきたのだろう……


それは何千万とか何億とかいう、くだらない数字じゃなくて

もっと大きくて、境目の見えないものだった


大切だったものを幾つも捨て、終わりの無い道を往く

薄い氷床の上を歩き

光も闇も無い大地を抜け

代わり映えの無い日の出を見て、不器用に笑う


悪戯に近づいては消えていく可能性の数多あまたを眺め

ついに僕は、無数の旅人の一人であることを諦めた


平等に配られた樫の棒切れを捨て、凍える夜を幾つか数えた

信じるものは無くなった、同時に目的という荷物も捨てた


一番大切にしていたものは旅の途中で失われていた

もう僕には何も無かった

一番大切なものを失った生き物がどこに行けばいいのか

僕は知らなかった



ある日のことだ

振り返ると、そこに道があった


僕はその道を見て気がついた

僕は何処から来たのか、知らなかった

思えば生まれた時から、ただ歩いていた


「帰ろう」と思ったんだ

蘇ったものは、今日の僕を待っていたみたいだ


きっとその先にあるものは――大きくは無いけれど、輝いている

覚えてはいるけれど、知らないものだろう


ひたすらに進んでいく旅人がいるのなら

ひたすらに帰って行く少年もいるはずだ



僕は、長い永い帰り道を歩き始めた――。

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