清水銃砲店業務日誌

Niigo

#1

西暦二〇三八年、日本。

かつてのニュータウン計画で開拓された元・里山の外れに、 一軒のガンショップがあった。


「佐々木。例のグリップ、印刷終わってる?」

そう言いながらハンドガンを弄っている少女、清水。この店唯一の職人だ。

「終わってたはずだけど。持ってくる?」

「脇に置いといて。あとヤスリも」

「りょーかい」

清水に顎で使われている長身の女性、佐々木。彼女は書類上ではこの店のオーナーだが、実態は雑用係だ。

「出来てたよ、ここでいい?」

佐々木はグリップを置くと、どこからか取り出したベイプで一服した。

「……スースーして鬱陶しい。外で吸って。」

「いいじゃんか、それとも甘いフレーバーのほうがいい?」

「……もしここでベリー系を吸ったら、粉々に粉砕する」

佐々木のベイプに文句を言いながらもグリップの研磨を終えると、清水は席を立った。

「そろそろいい時間だし、今日はこれで。――佐々木は?」

「それじゃ私も。今日も私の車乗ってく?」

「……そうする。」


西暦二〇三八年、日本。

不況に次ぐ不況、治安の悪化、違法物品の流入。

毎日のように殺人のニュースが流れるようになった日本。やがて人々は個人防衛の権利を求め、遂には憲法で武装権が規定されるに至った。

これにより日本の銃規制は米国に準拠したものとなり、廃工場は銃器メーカーに、そして殺人事件は銃撃戦へと変化した。

これは、壊れた日本に生きる、少女の物語。

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