第十八話
◆◆◆
ベルナールは不思議な高揚感に困惑していた。想いを巡らすうちにその原因を思いついた。
(自らの夢は教師だった)
そこに深い感動を覚え、自室に戻ると新しいノートを取り出し熱心に記述し始めた。表紙には『教育日誌(生徒オリオール家息女のサーガ)』と書かれていた。
▪️前文
収監中の公女殿下へ法律を教える、そんな貴重な機会を得ることができた。尋問と威力行使を役目とする尋問官本人が被疑者に対して裁かれる法律の意味を教えるのは大変興味深い。そこで、今後のこの国の法制度教育の発展に役立つことを祈り、日々の記録を密に取ることにした。
▪️教育一日目
被疑者は同日両腕に対して威力行使された為、これまでの被疑者と同様にコミュニケーションを断って翌日の回復魔導を待つと思われた。しかし、食事を運ぶ為に入室すると、開口一番で『法律を教えろ』と依頼してきた。大変興味深い案件なので依頼を受けることにする。
本日は法律の体系の説明のみとした。やる気を確認する為、明日迄に全てを暗記するように指示してみる。
▪️教育二日目
前回の回復魔導行使で効き目を理解したのか待ち侘びているように見えた。しかし暗記した体系をいいから早く試験しろと五月蝿かった。もちろん法律に則り回復魔導の行使を実施してやる。すぐに痛みが緩和されて恍惚とした表情に変わっていった。
ここで先ほどの要求通りすぐに試験を開始してやることにする。頭を振って冷静さを取り戻したサーガは何故か涙目で『鬼』と呼んできた。教員は聖職者のごとく、と聞いたことがあるので暴言は寛容の心で許してやることにする。更に椅子と机を用意してやると、こちらの熱意を汲んでくれたようで素直に着席してくれた。まぁ、試験結果は散々だったが、熱意は感じられたのでギリギリ合格とする。
午前中は『聖教律』の体系と概要を説明した。質問も多く、この生徒の熱意は大変良い。教える身にも熱が入る。
▪️教育三日目
昨日は熱中してしまい深夜遅くまで講義してしまった。今日も特に予定は無いので早朝から講義を開始することにする。聖教律だけでも二週間では間に合うかどうか。
早朝に叩き起こすと不機嫌そうに睨まれたが、授業が始まれば熱心な生徒に変わってくれた。結局、この日も深夜まで講義を続けてしまった。
▪️教育四日目
今日は尋問のある日なので法律に則り聖教騎士と共に朝八時に部屋に入る。すると既に椅子に座って熱心に復習をしていた。『六時から待っていたのよ』と上から目線で文句を言ってきたが、尋問のことを言うと『忘れていた』と急に青ざめ始めた。
情は感じるが尋問を開始する。回答はいつもの通り。威力行使もいつもの通り実施される。本日三度目の威力行使からは脚部も対象に含まれる。足の
我々に容赦する気はないことに気づくと勇ましいことを叫んで虚勢を張っていた。終わった後はピクリとも動かず泣きながら寝ていた。喋ったのは『今日は早退します』の一言だけだった。
▪️教育十日目
威力行使の翌日に回復魔導をかけて、そこから二日間は熱心に法律の講義を行う。これがルーティーンとなっていった。ある意味、静かで穏やかな日々が繰り返されていった。
両手両足が折られてから始めての尋問となった日の朝、『五本目は何処折るのよ』と睨みつけてきた。「尋問五回目は上腕が含まれる」と答えると『この法律を考えたヤツは本当にサイテーね』と涙を流しながら訴えてきた。理解できなくもないので『法律には敬意を持て』と軽く諭すだけにしておいた。
▪️教育十九日目
尋問を始めて二十二日目。今日はこの少女にとって正しく運命の分かれ道となる日だ。法で定められた威力行使は今日が最後で、両手両足を八時間かけて二箇所ずつ折られる。しかし、この苛烈な尋問もこの日まで辿り着いた者の全員が答弁を変えなかった。
法律に則り最終日が終われば威力行使は終了となる。この少女も最後の左大腿骨への威力行使の間中、笑みを絶やさなかった。
そう。『耐え切ったぞ!』と叫ぶ顔は美しい。
絶望に耐えて希望に向かう者は誰もが美しい。
願わくば、聖教騎士団などに加入したいと言い出さないことを祈るばかりだ。
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