第十五話

◇◇◇



 翌日は何もすることがなかった。尋問官は世話係が部屋の掃除や食事の差し入れをする時は必ず同行し目を光らせていた。こちらが話しかけなければ何も話してはくれない。

 この状況に少しだけ慣れたのもあってアイスバーグ共和国と教会、閃光騎士団と赤熱死病とミクトーラン、そしてアマリア様の関係性を考えていた。勿論何も結論は出なかったが、時間だけは湯水のように流れたようで、気付けば夜の帷が降りていた。


「もう夜か……」


 ふと明日のことを考えてしまった。右腕の折られた鮮烈な痛みを思い出す。その瞬間から翌日を迎えるのが恐ろしくなり、全く寝れなくなってしまった。

 空が白み始める頃、うとうとするが、寝てしまうことが怖くてすぐに目を覚ます。それを何度も繰り返していると、いつの間にか朝を迎えており、遂に尋問官が部屋に入ってきてしまった。


「これより尋問を始める。何か質問や言いたいことはあるか?」

「……」


 恐怖で何も考えられない。息は荒くなり目の前が暗くなる。ベッドの上で寝ているのに倒れそうだ。無理矢理に身体を起こそうとすると部屋に白ずくめの騎士が数名入ってきた。


「ひっ……」

「何もなければ尋問を始める」

「あっ、待って!」


 思わず遮るが、それ以上は何も口から言葉は出てこなかった。暫くすると尋問官から問いかけが再開された。


「尋問を始める。オリオール公が息女サーガよ。お前はミクトーラン卿に操られているか? 答えろ」


 何度聞いても呆れるほどの見当外れな問い掛け。瞬時に怒りが沸騰する。


「ふざけるな! 何度も言わせるな、ミクトーランはアマリア様のかたきだ!」


 その回答を聞くや否や白づくめの騎士が身体を抑える。


「や、やめて! こんなことして何の意味があるの!」


 手足をベルトでベッドに括り付けられると、尋問官はまたお決まりの台詞を吐いた。


「被疑者への二回目の審問も回答は否定。よって威力行使に移る」


 すると、白づくめの騎士は何故か右腕のベルトを外した。表情を読み取ろうと顔を見るが何の感情も見ることができない。

 唖然としていると、右腕の折れた箇所をもう一度曲げた。その瞬間、前回より小さなパキッという音がした。


「ぎゃーー!」


 痛みは前回と同様だった。身体が硬直し震える。その震えすら痛みに変わる。冷や汗をかきながら耐えるしかない。


「一時間後に三回目の尋問を実施する。対象は左腕となる」


 一言だけ言うと、男達は部屋から出ていってしまった。ここで、今日も耐え切った、そう安堵の感情が湧いたが先ほどの言葉を思い返す。


(一時間後に……左腕!)


 意味が理解できた瞬間に恐怖で震えが強くなる。右腕の痛みも強くなるが、左腕も折られるという恐怖には勝てない。


「そんな……そんな……」


 強くなる震えと痛みに耐えながら、ただ泣いているしかなかった。

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