6-8

今日もグラウンドには、八分の八のリズム感で大声を掛け合わせる部活がそれぞれ輪になっている。

レギュラーのサッカー部員が校庭の南側を大きく陣取り、今日は補欠が定休日なぶんの陣地が冬期の水泳部と陸上の走り幅跳び選手にあてがわれている。いつも食堂で騒ぎ立てている一年も、ここでは上から目を付けられないよう大人しくしている。


「やっぱケンちゃんってすげえなあ」

「一年でレギュラーって、一人だけなんだろ?」


水泳と陸上で合同している中、一年でいつも食堂に集うメンツがひそひそと耳打ちした。彼らの目の先では、いつも石段を走り回ったり一緒に馬鹿やってる同級生が今はコーンの区画を延々とドリブルで駆け抜けている。

片道分を渡りきったところでケンちゃんはようやく彼らに気づき、憎らしいどや顔を見せつけた。うっぜえー、と二人は舌を出したり中指を立てたりして帰してやった。






音楽室の扉が開くたび、漏れ出す歪んだトロンボーンの音は窓から三階まで突き抜けていた。


「なぜ、君はミサンガを結んだんだ?」


今日も結衣をお見送りして戻ってきたクララを捕まえて、水飼は挨拶ついでに訊いた。多くの人にはまったく聞こえないようだが、クララの呻きはわりと抑揚が分かりやすく上下する。


低い声が途切れ、クララが小さく肩をすくめた。水飼は脱力してハハッと本を抱えた。


「そのこだわりは分からないけど……君がそう言うんなら、しばらく様子を見張ることにしよう」


何か勝手に飲み込んだらしい水飼を脇に、クララは紙袋頭をまた少しへこませる。


水飼は揃った前髪をはらい、クララのいる教室を品定めするみたいに冷たく一瞥してから階段を下った。グラウンドでは吹奏楽部が四散させる音を押し返すように、運動部の部員たちがそびえ出す空の藍にかけ声を張り上げた。












落とし物に一応うさぎのキーホルダーを申請して、結衣は帰りの電車に乗り込んだ。

殺風景になった鞄の金具を撫で、結衣はそこをカサリといじる。手首には、クララに巻いてもらったミサンガが揺れていた。


結衣は今、自分がどうしてこんなにモヤモヤしているのか分からなかった。あれからのっぺらぼうの園児には会っていなかったし、クララくれたは、もうこれで安心だと漠然ながら信頼があるのだ。


なのに、と手首を握りしめた時、結衣は思い出した。



そうだ。クララを廊下で呼んだ時、あの場所には水飼もいたのだ。彼がクララを見えているかは二の次で、結衣はそうしなければならなかったのだ。


あの時の自分を、水飼はどう見えていたのだろうか———結衣は鞄を引き上げ、体をすっと縮ませた。




がたんと大きな音を立て、電車が短なトンネルをまたいだ。外は一瞬真っ暗になり、白く照らされた内装が車窓に反射する。景色をぼんやり眺めていた結衣も窓の向こうにつる。


結衣はハッと頬を引きつらせた。

彼女の目に映ったその顔は一瞬、死んだ色にこわばった知らぬ女の人のようだった。

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