6-6
一年生のフロアでは、騒ぎ立てる生徒たちの声が三階のフロアに響き渡っていた。
「おん前ら、卑怯だぞ!」
ギャンギャン吠える男子生徒の一群が、すごい勢いで廊下をつっ走る。
馬の合うやんちゃものが集まると、彼らは暴走して止まらなくなる。最近はサッカー部の西田がレギュラーを取ったのを期に、いつも一番騒いでいるメンツに加わっては理不尽な目に遭っていた。当人愉しんでいるのなら問題ないが、ひとまず掃除当番の仕事をろくにこなさない彼らにはそれが高一の振る舞いじゃないことを自覚して欲しい。
……と、最近西田と付き合いだした彼女も愚痴っていたが、集まった仲間内のノリで盛り上がり出すと分かっていても止められまい。
「おいここかよ!お前ら隠れてんじゃねえぞ!」
西田はバンと派手にドアを開いた。
普段使わないもので、ドアの力加減が分からない。そういう場所だから、逃げる方もそこを選んだのだろう。
電気も点けず、薄っぺらな棚がいくつも積まれたそこは印刷室だった。テスト明けだからか、紙を刷りにくる教員は今ちょうどいない。
「出てこいよぉ、ほら。お前らがここに入ってくの、俺見たからな?」
西田はドスを聞かせて暗い物置スペースに呼びかける。この部屋はドアが一つしかない。その分教員がここに入ってきた瞬間、彼らがしょっぴかれるのは確定するが、今はそんなことお構いなしだ。
相手の返事がないので、西田は部屋の中ごろへと踏み込んだ。やり込まれてばかりだったが、ようやく仕返しが出来ると彼はにやついていた。
西田は振りかぶって、ぎゃあと棚の奥を覗いた。
だが、思った所に相手はいなかった。拍子抜けした彼が前のめりになり、オーバーに苛立った声を上げる。
その時、背後に長い影が差した。
「あっ、」
西田は後ろ扉から漏れる、わずかな逆光を仰いだ。
彼の後ろに、クララが立っていた。
それから印刷室から何度か、派手な音がした。だが廊下には彼らの叫び声が飛び交っていたため、誰も気づくことはなかった。
誰の声が何を言おうと、掻き消してしまうほどに彼らはけたたましく騒いでいた。
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