寂しい人たちのマッチングアプリ
浅野じゅんぺい
第1話
寂しさの行方
深夜。部屋は闇と静寂に包まれ、時計の針の音すら響くほどだ。手持ち無沙汰にスマホを開くと、そこに広がるのはマッチングアプリの無機質な世界。無数の顔写真が並び、短いプロフィールが彼らの一部を語っている。「音楽好き」「旅行好き」「誠実な人希望」――薄っぺらい言葉が並ぶ中、彼らの本音が見え隠れする。
スクロールする指を止め、じっと眺めていると、画面越しに浮かぶのは理想と現実のギャップ。写真の笑顔の裏にあるのは、寂しさや不安。彼らは何を求め、何を隠しているのだろうか?
「みんな必死だな」
そう呟いた瞬間、胸の中にざらりとした違和感が広がる。彼らを眺める僕の目は、まるで動物園の檻をのぞくような感覚だ。自分は彼らとは違う、と無意識に線を引いている。けれど、本当にそうだろうか?
僕はこのゲームの参加者ではない。ただの傍観者だ。プロフィールを磨く努力も、期待して返信を待つ焦燥もない。でも、その優越感の裏に潜む小さな声が、ひっそりと囁いている。
「本当は君も同じだよ」
僕は気づいている。彼らを見下すことで、自分の孤独から目を背けているだけだと。でも、その事実を直視するには、少し勇気が足りなかった。
突然、スマホが震える。通知音が闇を引き裂き、新しい顔写真が画面に浮かぶ。知らない人の笑顔。その向こうにある生活、その奥に隠された心の傷――すべてが見える気がして、目を逸らす。
「彼らは何を求めているんだろう」
一瞬の安らぎか、永遠の幸せか。そのどちらも掴めない人たちが、この小さな画面の中に集まっている。けれど、僕は知っている。この場所で紡がれる関係の多くが、最終的に崩れていくことを。
僕は画面を閉じた。スマホの光が消えると、部屋の暗さが一層深くなる。窓の外で風が揺れる音が微かに聞こえ、また静寂が戻る。
部屋に漂う暗闇をぼんやりと眺めながら、僕は思う。
彼らの孤独も、僕の孤独も、闇の中では何の違いもない。どちらが滑稽で、どちらが哀れかなんて、考えることすら無意味だ。
すべては同じ闇に溶けていく。
いつの間にか、時計の針の音も聞こえなくなっていた。
寂しい人たちのマッチングアプリ 浅野じゅんぺい @junpeynovel
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