15 ある男の話


「心配したぞ!」

 屋敷の外にでると、父とその友人が駆け寄ってきた。

 ああと頷いて体に付いたすすを払う。

「ほら、ジャケット」

 渡されたのは、自分のものではないジャケットだった。

「え?」

 渡してきたの顔を見ると、お前のだろうと言ってきた。

「ロイ。お前が渡してきたんじゃないか」

 そんな心当たりはない。


「我々が外に出たのを見て──彼女はどこだと言ってジャケットを脱いで屋敷の方に飛び出したじゃないか」


 一体どうやって、二階の窓から飛び込んだのだろう。──僕と同じ顔をしたあの男は。


「そのあとまたお前が現れて、同じことを聞いてきた時には火事の恐怖で狂ったのかとおもったぞ」


「は」

 笑ってしまう。

 僕のものではない、薄汚れたジャケットを見て笑ってしまった。僕のふりをして会場に入ろうとしていたのか? もう分からない。

「はははは!」

 同じ顔でも、中身はまったく違うと思った。

 笑ってしまう。笑いが止まらない。


「どうした? ロイ? ……イースは?」


 ずっと笑い続ける僕を見て、悲しみで狂ったのだと誰も彼女のことを聞いてこなかった。


 笑い続けると喉が渇いた。


 炎の中に消える彼女の姿は、今までで一番美しい姿だった。


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ビューティフル・バンディット 鈴木佐藤 @suzuki_amai

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