第33話 いつものよう
まったくどこにいたのだろうか。
帰る時になって邪神ラヴェリタは姿を現したのだ。
『ま、テエエエエエエエエ!!!』
「また出たああああ!? ファーレ様いないのに!? なんでー!」
「何かあった?」
「邪神ラヴェリタが追ってきてるんです!」
「……本当に?」
それならば好都合なのではなかろうか。
呪いの本尊がいるというのであれば、それを倒してしまえば根本からの解決を見ることであろう。
魔力災害を解決できる。
「……問題はわたしにそれができるかってことね」
神殺しを成し遂げたものは有史以来存在しない。
アウレーリアの魔力量とて神の本領の前には米粒のようなものだろうことは、目の前の球体を見ればわかる。
例え、奈落の底たる冥界から出ることが出来ない邪神であり、かなり制限された状態で顕現するであろうラヴェリタの魔力量は相当なものになることは間違いない。
「まあ、関係ないわね」
命を賭けて倒せばいい。
自分の命だけで済むのなら昔よりマシだ。
南部すべてを犠牲にして汚染をとどめることしかできないのに比べればはるかにマシであると、アウレーリアは目を細める。
「アウレーリアさん、変なこと考えてませんか!」
「あら、バレた? 邪神をここで殺しちゃえば、魔力汚染を解決できるかなって」
「いやいやいや!? 神様を殺すって何を言っているんですか!?」
「天才はね、できないとわかっていても挑戦しなければならない時があるのよ。常人の尺度で考えていたら遅れるもの」
「死んじゃいますよ!」
「それで世界が救われるなら十分でしょう」
「嫌です!」
「じゃあ、どうするの?」
「ここから出られないという話なので早く引き上げてください!」
「手荒いのでもいい?」
「はい! あ゛やっぱり駄目です。変な事したらアウレーリアさんが!」
「わたしは気にしないわ」
「わぁ……こんな状況ですけど、久しぶりに聞いてなんだか泣きそうです」
それはよくわからないわ、とアウレーリアは思いながら、魔法を使って一気に巻き取りにかかる。
魔力汚染はギリギリだろうが、多少汚染されたところで切り落とせば問題ないの精神で行く。
この事実を解明したネーヴェの墓前でまた感謝しようと決めて、片手を球体の中へと突っ込んだ。
汚染が腕を這ってくるが魔力の流れを指先の方へ向けて拮抗状態を作る。
ニコレッタが見れば、馬鹿なのと言わんばかりの荒業であるが、アウレーリアは気にしない。
「ゼロ」
極大魔法を発動する。
十七色の閃光がマルテを掠ってラヴェリタへと直撃する。
「わああああああ!?!?!?」
さらにぎゅるんと掴んでいた腕の速度が上がりマルテは悲鳴を上げて引き上げられる。
混ざった黒と灰が色となって後方に下がっていく。
魔法の直撃を受けたラヴェリタは追う力をなくしたのか、ぐんぐん距離が開いていく。
伸ばした泥の手は速度を失ってマルテに辿り着く前に崩れる。
それでも追ってくる執念は酷く恐ろしく、とても憐れに思えた。
「……あたしとかお母さんとかにしたこと。あなたのせいでアウレーリアさんが虐殺しなきゃいけなかったこととか、赦せないことはたくさんありますけど……あたしをあたしにしてくれたことは感謝します」
泥の瞳と目があった。
憎悪と嫌悪の入り混じり血走った瞳がマルテを見据えた。
果たして何を思ったのだろうか。
ゆっくりと彼女は目を閉じて、マルテは光の中へと帰還した。
きゅぽんと音がなるようにマルテは球体から飛び出した。
「わあああああ!?!?!?!?!?」
勢い良すぎてアウレーリアに突っ込んで、二人してごろごろと灰の海を転がってしまった。
「も、もどってきた、え、ここどこ!?」
「どいてもらえる?」
アウレーリアはマルテの下敷きになっていた。
「きゃああ?!」
慌ててマルテは飛び上がって退いて、土下座に移行した。
「ごごご。ごめんなさい!?」
「謝られる意味が色々わからないのだけれど?」
「えっと……いっぱい怪我させたし、ここまで迎えに来てもらったりとか……」
「別に、わたしは気にしないわ」
「あたしが気にするんです!」
「なんだか、懐かしいやり取りね」
「あ、そうですね……ファーレ様のおかげで全然、すぐな感じなんですけど」
「こっちでは数か月たってるわ」
「え、そうなんですか!?」
「そうよ。さてと、それじゃああの球体を……」
泥の球体をどうにかしようとアウレーリアがそちらに視線を向けるとそこには何もなかった。
魔力の残滓すらなく跡形もなく消え失せている。
あるいは手を突っ込んだことで均衡を保っていた力が崩れて消え失せたのか。
「ないわね」
「何かあったんですか?」
「ここにあなたが入ってた泥の球体があったのよ。それが消えてるの」
「どうしてでしょう」
「さあ。でもなくなったのならいいわ。ここではもう少なくともあのヤバイ邪神は出てこないってことでしょう?」
「あ、そうですね」
「それじゃあ、さっそく帰りながら聞かせてくれるかしら」
「はい。もちろんです!」
アウレーリアは、帰るべく先を歩き始める。
数歩歩いたところで何かを思い出したようにマルテへと振り返った。
「ああ、そうだ」
「?」
「おかえり、マルテ」
「……はい。ただいまです、アウレーリアさん」
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