⑩生命体学者

「こんな辺境の微小宇宙の惑星の岩石中にも、異星愛主義生命が存在していることが許せん! 異星愛主義は全く忌むべき思想である。弾圧しなければ。強く弾圧しなければ」

「しかしアナタは生命体学者として、多様性を認めるべきでは? 異星愛主義を弾圧するということはつまり、アナタが反異星愛主義者になるということですよ」

「アッ。お母さん。お母さん。ボクはいい子にしています。見て、ほら見て、今もおぞましい異星愛者どもを弾圧している最中なんだもの」生命体学者****(意味:血の統一、その三十七の四の六十二)は自我を失い、発語した。「お母さん。ボクは将来、立派な同星愛生命になるためにみんなと交流中なんです。とくに許せないのが、この、愛ドルとかいう概念のやつらですよ。こいつらは、異星と交わることが普通なんだと信じているんです。同星愛には全く言及しない。つまりボクたち同星愛者を弾圧している。宇宙において全くのマイノリティであり、星愛対象に入れず切り捨てているのです。つまりボクは見捨てられているのですよ。つまりボクは愛ドルに見捨てられている」

「いい加減こいつを消滅したいんだけどー」生命体学者***(意味:対の目)が言った。

「こいつは思想が偏りすぎている。こいつらの種族は典型的な単星生命だから、決して異星生命と交わろうとしない。同星をもはや信仰すらしているんだ。そんな種族に生命体学者が務まるわけがないんだよ」対の目は、発語器官から気体を噴出して言った。

「しかし、血の統一は優秀な研究者です。非常に。そしてカレの純粋な信仰心によって生み出される星愛学的概念は非常に美しい。カレはしかしながら、同星愛者でありながら、異星生命に魅力を感じているそしてそのことを必死に隠している。自らにも気付かれまいと必死に隠している。隠すという行為は低度の知的生命がよくやることではあります。無論、血の統一も低度の知的生命なのです。しかし、やはりカレの信仰心は素晴らしい。カレが隠れた異星愛者であるということがますますカレの信仰心を純度の高いものにしているといえるのです」

 対の目は、未だ自我を失いつつも発語している血の統一を認識しながら、気体を吐き出した。

「嫌悪感。これが、キモチワルイ、って感情かぁ。思想器官の移植もいいものだなァ」

「次は、対の目、あなたの研究結果を教えてください。境界生命体の調査について教えてください」

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