第2話 王都へ
田舎には高等教育を受けれる場所がない。中等教育を卒業したら、家の仕事を手伝うか、王都に出稼ぎにいくかを選ぶのが基本だ。だが父は僕に王都に行かないかと提案してきた。王都にはここよりは魔法の情報が出回っていること、そして僕の成績が良かったことから試験に合格できると考えたらしい。
「くれぐれも魔法が使えることは誰にも言ってはいけない。」
言われなくてもわかってる。魔法が使える=高貴な血筋と思われて誘拐されるか最悪殺される可能性もある。父の予想通り入学試験は楽勝だった。申請をしたら村の中等学校でも試験が受けれるようになるのだ。合格通知が来たときから妹は僕との間に距離を置くようになった。自意識過剰かもしれないけれど。出発の日僕は荷物をもって玄関に立つ、お見送りは父と母だけで妹はいなかった。
「行ってきます!」
言うが早いか、僕は家を飛び出した。15年間住み続けたここに愛着はあるが、それよりも憧れの王都に行ける事が嬉しかった。王都への期待に心を躍らす。王都には沢山の人、おいしい食べ物、そして魔法を使える人がいる。途端右耳が引っ張られる。
「妹に挨拶もせずに出ていくとは。」
家の敷地の外で妹が待ち構えていた。拗ねたように見上げてくるが、一つ言いたい。お見送りに来てくれなかったのはそっちじゃねぇか。僕は妹を見つめ返す。
「お兄ちゃんが王都に行くこと、私は賛成してないんだけど。危ないし田舎者だって馬鹿にされるかもしれない。会える頻度も、、。」
僕は歩き始めた。妹が横についてくる。村を出るまで、他愛もない話をしながらゆっくり二人で歩いた。僕が魔法を初めて使った後、二人だけのお留守番はなくなり、二人だけで出かけることもなくなった。てっきり、妹の兄離れかと寂しく思っていたが、両親の僕への配慮だったらしい。妹自身も、自分のせいで僕が怪我したこと、危ない目にあったことへの申し訳なさがあったらしい。
「ここまでだ。」
僕は立ち止まって横を見た。妹は何か言いたそうだったけど、素直に立ち止まった。そして妹は10歩程来た道を戻った。
「結希っ!私も来年王都に進学する!お父さんとお母さんにはまだ言ってないけど、絶対OKって言わせる、だから!待ってて!」
そう叫ぶと妹は僕の返事も聞かずに家に向かって走り出した。小さくなる妹の後ろ姿が何故か頼もしく思えた。僕も心のどこかに寂しいという感情、王都への不安があったのかもしれない。入学試験は既に合格してあるが特待生試験はこれからだ。父さんは無理して受けなくていいって言ってたけど、子供二人の学費を払わせるわけにはいかないから特待生試験を受けることを決心した。
それからはあっという間だった。王都との間にある森は僕にとっては庭のようなもので、迷うこともなく魔法の出し方とかを練習しながら歩いた。記憶の中では視界全体が燃えるように真っ赤に染まったのに対して、周りを明るく照らすぐらいの役割しか果たせなかった。けれど一つ分かったことがある。僕には多分治癒能力のようなものも使える。妹を助けた時、僕は沢山殴ったりけられてたりしたはずなのに次の日傷跡のようなものは全くなかった。怪我をした動物を抱きしめて昼寝をしたとき、目が覚めると動物の怪我がなくなっていることもあった。そして極めつけは、先ほど足を滑らせて崖から少し(結構)落ちた時に全身擦り傷とかで血まみれだったのに次の瞬間傷がなくなっていた。驚くことに、服についた血も泥もきれいになっていたのだ。これは無意識に発動する魔法なんだろうか。そのようなことを考えてると王都への入口が見えてきた。妹と別れて4時間ほどたったのだろう。太陽は熱く照り輝いていた。門番に学校の入学試験合格証明書を見せると、おめでとう頑張ったねと褒めてくれた。なんでも王都の学生は成績が悪くなければそのまま進学できる分外部からの転入試験は難しいらしい。読書が趣味だったから試験が簡単だったということは秘密にしとこう。
「ん?夢見ヶ原?遠いな10時間?子供の足なら12時間以上かかるか。」
門番の独り言に耳を疑った。12時間だって?家から5時間もかかってないぞ。時計を見ても12時20分だ家を出たのは何時だっけ朝ごはんの後だから7時半以降だったはずだけど。魔法を使える人とそうじゃない人で体力にも差が出るのか?それとも移動速度?だとしたら妹は無理して僕の速度に合わせてたのだろうか。いや、そんなそぶりはなかった。汗一つかかず呼吸も荒くなかった。もしかしたら、妹も気づいてないだけで魔法を使えるのだろうか。
王都は賑わっていた。何しろ人が多い。僕はお父さんに教わった道順とメモを頼りに郊外から来る学生用の寮に向かった。証明書をみせると3階の部屋に案内された。さすがに家の部屋と比べたら狭いけど、それでも十分な広さだった。僕は荷物を整理しつつ3日後の特待生受験、そして入学式の想像をした。入学式が始まる前に特待生試験があり、その試験の結果と入学試験の結果、進学組は去年の成績などによってクラス分けがその日のうちに決められるそう。軽く勉強の本に目を通しながら横になった。まだ昼頃のはずなのに眠ってしまった。夢の中で僕は5色の光を見たきがした。
僕は魔法なんて使えません! 桜氷 @sakurakoori
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