僕は魔法なんて使えません!
桜氷
第1話 プロローグ
結良っ!声が出なかった。僕は必死に手を伸ばす。僕が強ければこんなことにならなかった。お願いします、もし神様が本当にいるなら、妹を、、。
「お兄ちゃん起きて、朝だよ。」
妹が部屋に入ってくるなりそういってカーテンを開けた。
「うなされてたけど、、大丈夫?」
心配そうに顔を覗き込んでくる。僕は興奮している呼吸を整えてから、絞り出すように声を出した。
「夢で、あの時の、、、そうだあの時僕は、、。」
妹は、ハッと気づいたような顔をして僕の目をじっと見つめてきた。なにか言われると思って待っていたけど妹はとくに何も言わずに部屋を出て行った。
「おはよう。」
ダイニングに行くと父が新聞から顔をあげながら僕をじっと見つめてきた。普段と違う雰囲気に自然と背筋が伸びた。いつもなら朝ごはんの支度で動き回っているお母さんと妹も、既に席についてた。
「そろそろお前に話さなければいけないと思ってな。」
読んでいた新聞をたたんでテーブルに置いて母と目配せをする父。僕は困惑しながら助けを求めて妹を見るがうつむいてて目を合わせてくれない。怒られるような雰囲気ではないが妙に母も父も神妙な顔つきをしている。直近に思いを馳せるが、怒られるようなことはしていないと思う。
「私たち一般市民は魔法を使えない。だがお前は魔法を使えるかもしれない。」
急な父の突拍子もない発言に僕は戸惑いを隠せない。
「ど、どういうことだよ?僕が魔法を使えるわけないじゃないか、僕は父さんと母さんの子だよ。父さんと母さんは王族でも貴族でもない、、、。そりゃぁ、魔法が使えたらなぁって思ったことは何度もあるよ?でもだからってそんな冗談はやめてくれよ。」
母さんと妹を見ても二人とも目を合わせてくれない。
「それじゃあまるで僕が、、、。」
「お前は俺たちの子供だ。」
僕が口に出そうとしたことを予測して、父さんが力強く言った。もし僕が魔法を使えて、父さんと母さんは魔法が使えなくて、魔法が使える王族の血が僕に流れているというなら、僕は本当の子供じゃないということになる。
「昔、お父さんとお母さんが出かけてる間に、私が庭で遊んでて、奴隷商に誘拐されそうになった時、お兄ちゃんが助けてくれたんだよ。私はその時初めて魔法を見た。本で見るよりも鮮明で綺麗で幻想的だった。」
妹がぽつぽつとゆっくり話始める。
「何、言ってんだ?その時俺は助けることができずに力尽きた。その後すぐ駆けつけた父さんがお前の事を助けたんだろ?俺は母さんにそう聞いたぞ?」
戸惑いながら母さんの方を見る。母さんはじっと僕の目を見た。だけど何も言ってくれない。父さんが立ち上がって僕の首に貼ってあるシールを剝がした。それは昔妹から誕プレで貰った魔よけのシール、貰ってから一度たりとも剝がさなかったし剝がれなかったのに父さんはマスキングテープを剝がすかのようにいとも簡単に剥がした。途端、急に頭が熱くなって座ってられなくなり床に崩れ落ちた。耳元で心配そうに叫ぶ妹の声が聞こえたような気がした。
その瞬間目の前が光った。奴隷商たちが異変に気付いてこちらを向く。
「殴り足りなかったか、さっき倒れたと思ったんだけどな。」
奴隷商のうち一人がこちらに歩み寄ってくる。僕は妹を助けたい一心だった。奴隷商達の体が燃え始めた。
「なんだ?これ、熱いって燃えてる!!!」
妹をわきに抱えているやつも僕を先ほど殴って蹴りまくったやつも燃えている。喉が焼けたのか奴隷商たちがそれ以上叫ぶことはなかった。妹だけは周りに白いベールがまとっているかのように熱さを感じず、燃えることもなかった。
思い出した。今まで忘れていた本当の記憶。これが魔法なら、僕が魔法を使えることは本当らしい。あのシールは魔法を使えなくする効果でもあったのだろうか、それとも記憶を封印するような効果が。ゆっくりと目を開ける。家族がベットの横から僕の事を見ていた。
「思い出したよ。」
僕は天井を見ながら言う。
「なんで僕は魔法が使えるの?説明してよ。」
「わからない、これまでずっと考えてきたのに。だがお前が正真正銘俺たちの子供だということだけは、はっきり言える。」
僕はあの時魔法を使った後気絶したらしい。駆け付けた両親に妹は状況説明をした、現場には魔力を使った形跡もあったそうだ。それから三人は僕にそのことを秘密にした。幸い僕は魔法を使った時の記憶が抜け落ちていた。初めて魔法を使ったことで体に多大な負荷がかかったのかもしれない。魔力抑制シールを妹に渡させたのは父さんらしい。妹からの贈り物なら不思議がらずつけてくれると思ったらしい。妹に貼ってあげるといわれて首につけられたときは驚いたが。本人には剥がせない仕様になっていたらしい。あの日僕に燃やされた奴隷商がどうなったのかは怖くて聞けなかった。燃え尽きてしまったのなら、僕が殺したということになる。
「ありがとう。今まで言えなかったから、あの時助けてくれたことへのお礼。」
妹が僕を抱きしめた。最近妹は兄離れしてきていたから久しぶりに抱きしめてくれたことが嬉しかった。
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