有馬さまは昼寝がしたい!

地獄くん

episode1 鳥

布団に、ココア、30分ほどのストレッチ。

アイマスクをして布団に入る。


「って、まだ昼ですけど!?熟睡しないでくださいね!?」

「っるさいなぁ、別に今日はこれから何もないんだし、明日の朝まで…」

「駄目です、というか課題はやったのですか?旦那様が見られたらまたなんと仰られるか…」


布団を剥がす執事、怜明は声を大きくして言う。


「課題ならとっくに終わってる。自習もした、次の授業も完璧。だから私は一秒でもたくさん寝たいの」


怜明はため息を吐くと隣の部屋から本を、参考書をこれでもかというほど持ってくる。


「暇ならこれでもやっといてください。と、旦那様が仰られていました」


勉強机の上にどっさりと積まれた参考書。


「分かったわよ、それで?パパは次いつ帰ってくるの?参観日は来てくれるの?」


怜明の眼鏡が曇る。


「旦那様は…大きな仕事を抱えている様子で、半年ほどは、厳しいかと。よろしければ参観日は私が…」

「そう。ううん、いいのよ怜明。あなたも学校が忙しいでしょ?」


笑顔を取り繕った泣き顔、実際に涙を流しているわけではないが二年も一緒にいれば大体分かってくる。そして、こういう時はそっとしておいて後で好物のシチューを作っておくことが一番。


「仕事ですので、有馬さまが気にかける必要はありませんよ。それでは失礼致します」


ドアの閉まる音。


私は公立高校に通う中学三年生で、、中学入試はいろんな事情があって受けられなかった。

高校は絶対受験に受かってパパが言う私立の名門高校に通う!

だからこんな難しい問題だって…!


(全然だめだぁー)


参考書は集中が入ればすぐ終わる。入らなければ一ヶ月かけても終わらない。


まだ十月、本気出せば大丈夫。

パパがダメなら参観日は怜明に来てもらいたかったなぁ、まあ高校生だし、忙しいか…


落ち着いた木目の雰囲気に冷蔵庫や掃除ロボット、机といった所々に黒い家具が目立つ彼女、有馬美咲の部屋には幼い頃の家族写真がテレビ台の上にぽつりとある。。


早くに亡くなった母と、留学に行った兄と、仕事でいつも家にいない父とそして私、海で楽しそうにはしゃいでいる。この写真は私にとっての宝物であり、戒めだ。


母は優秀な女性だったという。若くして会社の副社長にまで上り詰め、経営危機から幾度も父の会社を救ってきた。父と母は社内恋愛で結婚し、国中から祝福の声が寄せられた。


そんな父と母。

私は、二人の仲を引き裂い…


(あれは、私のせいじゃない!)


やめろ


(すべて、あの場にいなかったパパたちが悪い)


違う、黙って


(本当に憎むべきはお兄ちゃんではないのか?違うか?)


違う違う違う、もう!


「いいから黙ってよ!」


「………有馬、さま?」


水の入ったコップになみなみ注がれた熱々のシチュー。

トレーに載せた怜明はきょとんとした様子でこちらを見る。


「……なにもなかった、いいわね?」

「分かりました、シチュー、ここに置いときますね」


そして怜明はまた部屋を去る。


昔のことはもういいの、もう私は、


みんなみたいに鳥になることを諦めたんだから。


















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