第5話 国王陛下との謁見



「面をあげよ、アリス・サルバート」




「……はい」




 頭上から掛かる厳かな声に、私はゆっくりと顔を上げる。眼前に映る玉座には、御年三十二歳、我がスモル王国のトップ、オライオン・スモル国王陛下だ。ジークに瓜二つの……違うか、ジークが瓜二つなのか。そんなイケメンの王様である。




「……どうしたんだい、アリス・サルバート? そんなにぼーっとして」




「……? ……っ! も、申し訳ございません!!」




 やばっ! 超イケメンだから思わず見惚れちゃった。うーん、凄いタイプなんだよな~、国王陛下。ぶっちゃけ、ゲームのスチル絵見た時も一押しだったし! 攻略キャラじゃないから涙を呑んだけど……でもやっぱ、イケてるわ~。




「緊張しているのかな? そんなに緊張しないで良いよ? ほら、お菓子でも食べる?」




 そう言ってポケットから綺麗に包装されたキャンディーを取り出す陛下。おい、『わく学』こういう所だぞ? なんで印刷技術も碌に無い様な世界観で、包装されたキャンディーが出て来るんだよ。




「あ、ありがとうございます。頂きます」




「……ふん。こんな奴に下賜してやる必要は無いのに」




 おずおずと陛下からキャンディーを受け取った私に不満そうな声が掛かる。隣で私と同じように下げていた頭を上げたジークだ。




「……ジーク」




「父上! 昨日も申しましたが、私はこの様な乱暴者との婚約などイヤです! どうか、お考え直し下さい!!」




 そう言って目を剥いてこちらを睨むジーク。そんなジークに、陛下はため息を吐いた。




「……昨日からこの一点張りでね。何があったか、聞いても良いかな?」




「説明は昨日したじゃありませんか、父上! この女が俺――じゃなくて、私を蹴ったのです!」




「ジーク……はぁ。ジークはこう言ってるけど、アリス嬢? それは事実なのかい?」




「事実です。綺麗なドロップキックをかましました」




 心持ち、胸を張ってそう答える。うん、メアリ曰く、別にこの婚約は破棄でも良いんだろ? なら、折角だ。言いたい事、言っちゃおう。




「ドロ――そ、それは剛毅な……理由を聞いても?」




「昨日、私が倒れた時にジーク殿下はお見舞いに来てくださいましたが……その際に言われたのです。『お前なんかより、リリーの方が良かった』と」




「……ジーク」




「事実です! 私はこんな乱暴女より、リリー……リリアーナ・スワロフの方が良いです!」




「ほら、これです。その上、見舞いを『義務』と仰られたので……失礼ながら、一発、蹴りを入れさせて貰いました」




「……」




「教育的指導です、陛下」




「どこが教育だ! 仮にも次期国王に向かって蹴りを入れる臣下が何処にいるんだ!!」




「此処に」




「ふざけるな!!」




「殿下こそ。そもそもですね? 私は殿下の婚約者です。婚約者は臣下ではなく、対等なパートナーである筈でしょう? それともなんですか、殿下? 殿下はなんでも言う事を聞くお人形が欲しいのですか? ああ、だからリリーをご所望で? あの子、気は強くないもんね?」




「貴様!!」




「無論、公の場では殿下を立てる事を厭うつもりはありません。今後、殿下が陛下になられた時には、一歩引いて殿下を立てましょう。ですが、なんでもかんでもハイハイという事を聞いていては、殿下が間違った時に誰が殿下を正せると? まさか殿下、絶対間違えないとでも思ってるんですかぁ~? アハハ! むりむり~。取り敢えず、女の扱いから間違っていますから~?」




「き、貴様!」




「さっきから貴様しか言ってませんけど? なんですか? 言いたい事があれば言えば良いんじゃないですか? 耳に心地よい、間違いを間違いだと正せない部下だけを周りに固めてお山の大将気取りますか~? 良いですよ、それでも。でも、そんなんじゃスモル王国、早晩滅びちゃいますけどね!!」




「無礼だぞ!!」




「無礼だと思うんだったらそう言わせない王様になって見なさいよ! そもそも、臣下だと思う人間を見舞って、『義務』なんていうトップに誰が付いて行くと思うのよ!! 臣下はねぎらってこそ国王の器ってもんでしょうが! 裸の王様ごっこしたいなら他所でやって! 私を巻き込まないでくれますか!!」




「貴様ぁーー!」




「はい、出ました~。『きさまぁあ』ですか? 語彙力、退化してませんか~? ねえ、どんな気持ち? 女に言い負かされてどんな気持ちぃ~?」




「女だからと言って容赦はせん!! 無礼討ちにしてくれる!!」




「上等だ! 昨日はこっちも容赦して腹にドロップキックだったけど、今度はそうはいかないわよ! 男の大事な所、叩き潰してやる!」




「おま、それは卑怯だろ!」




「私はやると言ったらやる女だ!!」




 睨み合う私とジーク。と、そんな私たちの頭上から、国王陛下の呆れた様なため息が響いた。あ……




「……勘弁してくれるかな、二人とも? 一応、国王陛下である僕の前だよ?」




 完全に疲れ切った表情を浮かべる陛下に、慌てて頭を下げました。


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