カノジョに骨抜き!

一花カナウ・ただふみ

骨が舎利になってもいとおしく

 特殊な趣味の持ち主だとは思っていたが、こうしてベッドの上でイチャイチャされるとなんともいえない気分である。いや、まあ、死人に口なしなので口出しできるものじゃないんだが。


「うふふ、やはりダーリンはこの頭の丸い感じがいのう」


 幸せそうに頭部を撫で回す様は、現状を目の当たりにするとだいぶグロテスクなのだけど、当人は幸せそうなので俺的にはとてもツッコミに困る。


「できればもっともっと撫でてやりたかったが、私の背が低くてどうにも叶わなんだ。膝枕も拒否されたし、同衾しているときも私より先に寝ることもなければ遅く起きることもなかったからなあ。とても惜しいことをした」


 切なげに告げると、彼女は髑髏しゃれこうべを持ち上げてそっと口づけをする。


 ――ん?


 俺の唇が反応した。彼女の柔らかな唇の感触が蘇っただけだろうか。


「愛していたし、今後も愛しているぞ。ダーリン」


 かつて俺だった頭蓋骨を愛おしげに撫でて彼女は目を閉じる。


「……俺もだ、マイハニー」


 不治の病で余命幾ばくかと宣言された俺との結婚を願って突然現れた彼女に不信感を抱いていたのは否めない。財産が目的じゃないか、とか考えるだろう、普通。

 俺にはそれなりの地位があったし、財産も持っていた。その財産を使って延命治療をして、ある意味人体実験じみた面があった。不治の病とされるこの病気を、俺のあとでは寛解できるものとなればと願って身を捧げた。

 彼女はその治療中に出会った。医療術士の資格を持つ魔術師で、俺の専属の座を手に入れるために結婚をと迫ってきた。この不治の病を克服する研究に役立てるならと論文の提出を求めたら、彼女はしっかりとした資料を用意して俺の要求を軽々とクリアして見せた。ならばと俺は彼女と結婚し、治療を続けることになったのだ。

 だが、運命は無情だ。

 宣言された余命よりも俺は長生きしたが、彼女を残して旅立つこととなる。

 で、意識が遠のいたと思ったら、次の瞬間には俺の髑髏を抱きしめて幸せそうにしている彼女を目撃したに至る。

 愛の形にはいろいろあると思うが、彼女にとっては俺の頭の形が好きで好きでたまらなかったということなのだろうか。

 まあ、歪な頭なのを気にしていたからな、彼女……。

 コンプレックスゆえなのかもしれない。俺は俺でそんな彼女の後ろ姿が愛おしくて、何度も頭を撫でていたのだが。

 小さくて愛おしい存在だった。彼女は子ども扱いするなと不満げにしていたが、そんなところもとても好ましかった。生きている間は愛を囁いてやることはなかったが、俺はずっと彼女を好いていたのだ。


「ダーリン……」


 おっと、寝言か?

 俺は意識を集中させる。


「ずっと、私のそばに。いつか、蘇らせてやるからな、転生してくれるな」


 俺の意識がここに残っていることに気づいているのかいないのか。彼女は髑髏に頬擦りをしながら呟く。


「……呪われているのか、俺」


 この調子だと、しばらくは彼女のそばに居られるんじゃないかだなんて期待しながら、可愛い歪頭を撫でるのだった。


《終わり》

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

カノジョに骨抜き! 一花カナウ・ただふみ @tadafumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ