日常
朱雪
第1話
一月二日 今日は家族と初詣に出かけた。人はまだたくさんいたけど、楽しかったです。
「お年玉で何をしようかな〜」
一月十五日 今日は学校へ行く電車の中で好きな子を見つけた。ラッキーだった。
挨拶をしようにも、内気な僕は声が出なかった。
「くっ、無念」
二月三日 節分だ。豆まきは楽しかったけど、後片付けがイヤだったです。巻きずしはおいしかったです。
「弟と張り合って喉をつまらせた時はどうなるかと思った」
母さんにめちゃくちゃ怒られた。
三月二十日 今日から春休みです。日付が空いてしまったけどまた書き始める事にした。
「バレンタインデーは何もなかった。進学したら彼女作ろ」
友達百人できる学校の方が今は珍しい。昔好きだった女の子ともここでお別れだ。
四月十七日 新生活は慣れるまでが大変と聞いていた。本当だった。正直舐めていたところもある。
授業について行く事も当然だが、僕はまず環境に慣れるまで苦労するだろう。
「あー、だめだ……」
寝落ちした。
五月三十日 僕は車を運転して友人と出かけた。
着いた場所は、昔よく遊んだ公園だった。
「少し休憩しようぜ」
友人は笑って頷いた。
六月十日 今日は体の調子がいい。スーツを着た僕は軽い足取りで商店街を突っ切る。
「久しぶりに外を歩くと気持ちがいいな」
散歩をしている気分になりながらも、僕の脳裏に疑問が浮かぶ。
――何故、外出が久しぶりなのか? と。
七月二十一日 僕は海に来ていた。目の前にはどこまでも続く青い海と空。隣には仲の良い女性がいる。豪華客船に乗った僕と彼女以外に人はいない。
「それでえーと……君は、誰だっけ?」
――知らない女性と仲良く話していた。
八月七日 僕は今日あの時と同じ、学校へ向かう為の電車に乗っていた。離れた席には好きだった女の子が座っている。内気な僕は話しかけられず、俯いた。
「ねぇ、隣いい?」
可愛らしい声が聞こえて顔を上げれば、あの子がすぐ近くまで来ていた。
「ど、どうぞ……」
僕は緊張しながらも頷いた。
九月十二日 以前勤めていた会社に来ていた。理由は何だったか、思い出せない。
それでも僕は淡々と業務をこなしていた。その行動に今回は疑問を抱くこともなく。
「先輩も上司も、みんな元気そうで良かった」
ただただ、安心した。
十月五日 何故だろう。最近、とても眠い。涼しくなったから、今までの寝不足を解消しようとしているのだろうか?
「…… あれ? ここは、どこだ?」
自分の居場所が、一瞬分からなくなる。
十一月八日 僕はなんて事をしてしまったんだ。恋人を奪った同僚を衝動のままに崖から突き落としてしまった。
「憎かったのは本当だ。でも、死なせるつもりなんてなかったんだ」
うわ言のように何度も何度も呟いたが、それで事実が変わる事はない。
――僕の人生、これで終わったな。
十二月三十一日 今日でこの日記を書くのは最後だ。このまま続けていれば本当に気が狂ってしまうと医者にも言われた。
「ネットで知った【夢日記】だったけど、やり方次第で健康まで害するのか。……次は気を付けるか」
僕は日記帳をゴミ箱へ放り捨てた。
日常 朱雪 @sawaki_yuka
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