最強魔術師は現代でも平和に暮らしてます

にんにくましまし

第1話 平和

大きな満月の元、城では宴が開かれている。

どうやら、戦争で勝ったようだ。

その城の南東の塔、主人の寝室で、ある男は「人魚の鱗」と書かれている瓶を飲み干した。

宴が静まった頃、その城から2キロ離れた村の杖屋の者でさえも聞こえる、大きな悲鳴が聞こえたそうだ。


120年後────────


俺はかつて最強魔術師と呼ばれた男、レーリック・マルトルだ。

様々な国を転々として、今は日本に住んでいる。

日本に長く住んでいる理由は生まれ育った魔術界とは全く違うからだ。

率直に言うと、平和、なのである。

確かに毎日ニュースを見ていると、何らかの訃報はある。

しかし、俺が住むここは至って何もない。平和な暮らしが営まれている。


「おばあちゃん、これ酒だよ」


おばあちゃん、と俺が呼ぶ女性が夢の国のキャラの描かれたコップに注いだのは、ぶどうジュースではなくワインそのものだった。

おばあちゃんは山田みつこさんと言って、俺が今働いている古本屋の店主だ。今から10年前、当時74歳の時、そろそろ閉店する寸前に俺が跡を継ぐとかなんとかと言って難を逃れた。ここは、俺が生まれ育った家の近くにあった古い魔導書を扱う店によく似ていたのだ。


「いいよいいよ」


シワまみれのその顔がくしゃりとして、おばあちゃんは首を振った。

どうせ客も来やしないから、と。


「じゃあ、頂きます」


そう躊躇いもせずワインを口に含んだときだった。

カランカラン、とドアのベルが鳴り、


「すみませぇーん」


と何やら女性の声が聞こえた。


「まだ飲んでないかい?」


おばあちゃんは俺の方に振り向いてそう聞いた。

俺はこの口に含んだワインをどうすることも出来ず(吐き出すことはできたかもしれない)ごくりと飲んだ。


「飲んじゃった」


「仕方がない子だねぇ」


おばあちゃんはよっこらせと椅子から立ち上がり、ドアの方へ向かう。


「おばあちゃんが出したんですよー!」


ワインのボトルを見ながら文字を読んでいるとおばあちゃんからしわしわな声で返ってきた。


「リックさんのお客さんだそーよ」


「ん?はーい」


(俺に客なんて珍しいないつもはおばあちゃんの友達とかなのに)


仕方なしに俺は立ち上がり、店の玄関口に向かう。

この店は実は奥が自宅となっており、大きな本棚が壁の役割をしている。そろりそろりと床の上に積み上げられた本を倒さないようにわずかの隙間を歩いていく。よくおばあちゃんは転ばないなぁといつも感心するものだ。


「レーリックさん!!!!」


「えーと、君は…」


玄関口に着てみると、全く知らない顔の女性が俺の名前を呼んだ。


「誰、、?」


そう俺が首を傾げると、おばあちゃんはまあごゆっくりなんて言って戻って行ってしまう。


「魔術郵便局のママンって言います!これ魔術国家軍指揮官のゴドフル様からの伝達です」


「ゴドフル様…?」


さっきから彼女が言っていることの意味がわからない。なんだ?新手の詐欺か?

俺はもう魔術界からこちらの世界に来て100年以上は経っている。なのに何故急に…?俺を見つけ出してまで何がしたいのか。


「郵便魔法で手紙を送りたかったのですが、こちらの世界の座標は計算するのが難しくて…」


えへへ、と、ママンは頭を搔く。

俺はそんな彼女には目もくれず、手紙を開いた。


「実は俺は今魔法とはもう無縁なんだよ、親衛隊には入らない…いや、入れない」


俺は魔術字で書かれた手紙を彼女に見せつけた。


「えぇっ!そうなのですか?!てかそれ私聞いちゃって大丈夫です!?」


別に断るし、極秘じゃないから大丈夫だ、と俺が言うと、彼女から思わぬ言葉が発せられた。


「その文字私読めないんですよ、?」


「え?いや、郵便局に勤めてるなら文字は読めとかないとダメだろ」


すると、彼女は首と手を同時に振った。


「それ、古代文字なんですよ」


「ちょっと待ってくれ。さっきから、」


「確かゴドフル様、今の文字じゃ読めないだろうからって〜」


それでも彼女は話し続けている。

俺はまだ状況の整理がついていない。つくわけがない。


「120年ってそんなに変わるか、?」


「変わりました」


真剣な眼差しで聞くと、真剣な眼差しで返ってきた。

数分の沈黙の後、俺は額に手を当てて考えた。

そして、口を開く。


「…なるほどな、そんなに俺を魔術界に戻したいのなら…」


「おお!」


「戻ってやれなくもない」


「いいんですね!」


わぁい!と歓声が上がった。しかし、俺はうぅんと唸ってからこう言った。


「と、言いたいところなんだが…」


「なんです?!ここまで私を期待させといてやっぱりダメとか無いですよ!」


俺はこの店を継ぐとつい最近言ったばかりだ。

それなのに、やっぱり故郷へ帰るので辞めます、なんて言えやしない。そもそもその選択肢は今の俺には無いのだ。


「俺はこの店を継がなくちゃいけない」


意を決してそう言い放った。


「そうですか…」


ママンは俯く。肩がわなわな震えている。泣いているのか、?おい、大丈夫か、と俺が言いそうになった時。


「あんたそろそろ故郷へ帰ったらどうだい」


「お、おばあちゃん!?」


部屋に戻ったとばかり思っていたおばあちゃんはいつの間にか椅子に座り、メガネをかけて本を読んでいた。


「聞いてたの?」


慌てて俺が駆け寄ると、おばあちゃんはおほほと笑った。


「いや?わたしゃ二つのことを同時にすることは無理だよ」


この本に故郷の話があって、リックさんの故郷が気になってしまったんだ、とおばあちゃんは言う。パタンと本を閉じ、おばあちゃんは俺を見た。


「この店は、リックさんがいたから続いたんだ、お礼1つさせてくれないかい?」


「おばあちゃん…」


俺の目頭が熱くなり、感動に浸っているとそこに邪魔者が入った。


「良かったじゃないですか!ささ、行きましょ!」


「もう少し待ってくれたって良いだろ!」


俺の腕を引っ張り、ママンはさあさあ行きましょう!と店の扉を開けた、その時だった。


「え?」


なんと、その扉の先に広がる世界は、木が草原の向こうに生えていて、その先には王都が広がる…

正しく俺が昔居た、魔術界…


「どうやった!?」


俺はママンの両肩をつかんだ。


「え?転送魔法ですけど」


「もうそんなに進化してるのか!?」


「そうですね…」


若干引いた目で見られたがそんなことは気にしない。

俺はママンから手を離し、腕を組んだ。


「じゃあ、…観光するか、」


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


みなさん初めまして

作者のにんにくです。

ちなみに、にんにくはそんなに好きじゃないです。

でもラーメン屋さんで無料のにんにくがあったら、

貰っちゃいますね。どうでもいいか。


追伸急に気になって見てみたら色々誤字ってましたすみません。

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