温かい時間
第4話
「どろんこハリー」
その貼り紙に一瞬立ち止まってしまった。
子供の頃大好きだった絵本。
「おはなし会があるのよ。来ない?」
笑顔の人が私に話し掛ける。
冷たいリノリウムの廊下で、その貼り紙は温かく私を誘う。
ゆっくりと視線をずらして溜め息をついた。
「これ、読んで…」
気が付くと、私の傍で女の子がパジャマの裾をしゃぶりながら、モジモジと絵本を押し出していた。
「はらぺこあおむし」
懐かしくて、思わず女の子の傍にしゃがみ込んだ。
女の子を膝に抱いて、私は絵本を読んだ。
遠いむかし、母が私にしてくれた様に…
冷たいリノリウムの廊下に、温かい時間がゆっくりと流れていった。
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