第20話
【東風吹かば…という遺伝子の魔法】
暦の上では雨水(うすい)を過ぎたのに
春はまだ遠い
そろそろ風は東から吹いてくるはずなのに…
今日は北から思いっきり吹いている
それでもバスの中は暖かく
車窓越しの陽射しに
ついウトウトとまどろみそうだ
午後の田舎のバスの中は閑散としていて
高齢者の方が3人程座ってらっしゃるばかりだ
空いたバスの後部座席に座っていると
色んな人や物が見える
一つ一つがホームドラマの様に
ストーリーを紡ぎながら
当たり前に流れていく
本来ならインフルエンザの時期を過ぎて
花粉の為にマスクをする人が増えるはずなのに…
まだまだインフルエンザのマスクが
減らない
一時は色鮮やかなマスクや
変わった形のマスクが見られたが
今は極々普通の白いマスクばかりだ
車窓から見える風景に
春の花の姿がちらほら見えるはずなのに…
硬い蕾は膨らんだまま
その内なる花は
まだ開かない
それでも私達はカレンダーに季節を感じて
春を探しながら出かけている
もう少しすると
車窓から
新しい旅立ちを迎えた卒業生という
キラキラした希望の人達が見えるだろう
どんなに陽気が変わっても
私達の遺伝子は巡る季節を感じて
反応する
控えめながら深い緑色に
薄いピンクが並ぶと
「さくら」を連想するのは
この国に生まれて育った遺伝子の魔法だろう
今日もバスの車窓から
春をつい探してしまいながら
午後のひとときを過ごす
そんな他愛もない
浅い春の頃である
他愛もない日々 葛葉 @mizuhanomegami
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。他愛もない日々の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます