第6話:熱海に到着
電車は静岡方面へと進み続けていた。車内は朝の通勤・通学ラッシュが過ぎたとはいえ、まだ混雑しており、立っている人もちらほら見られる。莉音と麻衣は座席に並んで腰かけ、小さな声で会話を交わしていた。
莉音:「麻衣、朝ごはんちゃんと食べた?」
麻衣:「うん、軽くトースト食べてきたよ。でも、もうちょっとしっかり食べておけばよかったかも…。莉音ちゃんは?」
莉音:「私?バナナ1本だけ!お腹空いてきたかも…。」
麻衣:「そりゃ足りないよ~。でも、もうすぐ熱海だし、お昼ご飯楽しみだね。」
莉音が由梨菜に顔を向ける。
莉音:「由梨菜、お昼、何食べるか決まってるの?」
由梨菜は微笑みながら答える。
由梨菜:「お母さんに電話したら、お寿司奢ってくれるって。」
「やった!」莉音と麻衣が声を揃える。
「声、大きいって(笑)」由梨菜が軽くたしなめると、ふたりは照れ笑いを浮かべた
電車は、しばらくの間、静岡の風景を抜け、徐々に海の匂いが漂い始める。車窓からは、青い海と緑の山々が交互に広がり、沿線の風景がどこか穏やかな雰囲気を醸し出していた。
「もうすぐだね。」由梨菜が、軽く腕を伸ばしながら言った。
麻衣は窓の外を見つめ、しばらくの間その景色に見入っていた。「すごくきれい…。熱海って、こんなに海が近いんだね。」
莉音も目を輝かせて海の青さに見入っていたが、すぐに顔を由梨菜に向けて言った。「でも、お昼が楽しみで仕方ないな~。お寿司!」
悠太もふたりに向かって振り返り、「お腹すいたなー。お寿司の話聞いたらまだ10時半だけどもう限界かも。」と冗談交じりに言った。
次の瞬間、電車が少し揺れた後、アナウンスが流れる。「熱海、到着です。お出口は右側です。」
「来た!」由梨菜が嬉しそうに声を上げ、一行は立ち上がる。悠太も一緒に立ち上がり、「待ってろよ熱海!」と少し照れくさそうにしながらも、心の中の熱い思いを込めて言った。
ドアが開くと、熱海駅の風が一行の顔を優しく撫でた。ほんのり塩の香りが漂う空気が、旅の気分を高揚させた。駅舎の中は賑わい、人々の楽しそうな声が響いている。ホームの窓から見える温泉街特有の趣とリラックス感のあるその風景は、青い空と広がる海とともに、一行を温かく迎えてくれているようだった。
ホームに降り立った一行が改札を抜けると、すぐに由梨菜の母、香織の姿が目に入った。香織は、陽の光を浴びながら軽く手を振っている。
「おかえり!由梨菜!」香織は柔らかな笑顔で迎え入れた。
由梨菜が駆け寄り、「お母さん、久しぶり!」と嬉しそうに声を弾ませる。香織はそんな娘をしっかりと抱きしめ、「元気そうでよかったわ。」と微笑んだ。
そして、香織は他の3人に「みなさん、熱海にようこそ。いつも由梨菜がお世話になってます。今度の旅行、凄い楽しみにしてたみたいだから、ご面倒をおかけするかもしれませんが、一緒に仲良く遊んでやってね。よろしくお願いします。」と言って凄く丁寧にお辞儀をした。
すると、麻衣と莉音が、「いえいえ、こちらこそ、由梨菜さんにお世話になってます。」、「こちらこそよろしくお願いします。」とお辞儀で返した。
その後ろから、悠太が一歩前に出る。香織の視線がふと彼に向けられた瞬間、驚いたように目を見開いた。
「ゆうちゃん?」香織が驚き混じりの声で名前を呼ぶ。
悠太は少し照れたように頭をかきながら、「どうも、お久しぶりです。香織叔母さん。」と挨拶した。
その瞬間、香織の顔に驚きと喜びが入り混じった笑顔が広がる。「まあ、ゆうちゃん!こんなに立派になっちゃって!最後に会ったときはこんなに小さかったのに…!」
自分のお腹の高さに手をあてて微笑む香織に悠太は軽く苦笑いを浮かべ、「もう十年以上前ですからね。その頃はまだ6才でしたし。」
香織は感慨深げに彼を見つめた後、「背も高くなったし、顔つきもすっかり大人ねー。でも、目元は昔のままだわ。あのときと同じ優しい目をしてる。」と言って目を細めた。
悠太は苦笑いしつつ、「最近ちょっと筋トレしてて体は大きくなったかもです…」と小声で言った。
「うん、カッコよくなったわねー!」香織が嬉しそうに頷くと、悠太はますます顔を赤くした。
そして由梨菜が茶化すように「悠太くん、おばさんに褒められてよかったね~。」と横から口を挟むと、悠太は軽く肩をすくめつつもどこか嬉しそうだった。
香織は再び全員を見渡し、明るい声で言った。「そっちに車を停めてあるの。お昼ご飯はお寿司だから、その前に荷物をトランクに入れちゃいましょうね。」
みんなは頷き、香織の案内に従いながら駅前の駐車場へと向かった。真夏の強い日差しの中、海風が心地よく吹き抜け、汗ばむ肌に一服の清涼感をもたらしていた。旅の雰囲気が、より一層、開放的で明るく感じられた。
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