オーダーメイド・ボーンズ

ファラドゥンガ

前編 オーダーメイド・ボーンズ

 煌びやかなネオンが彩る通路を抜けた先に、一軒の店があった。頭蓋骨の影絵シルエットを標した看板、扉の上には『骨格スケルトン屋』という文字。オーダーメイドの骨を提供しているようだ。


 今日もまた、店の扉を開く者が一人……。



 * * *



 「これはこれは、レーウェン様」


 パリッとした紳士服に身を包んだ店員が、訪れた顧客に問いかける。


 「ちょいと注文しに来た。またカッコいいのを頼むよ」


 顧客は滑らかなチタン合金製の、誰が見ても明らかな人型ロボット。

 そして腕に、卵のような楕円形ポッドを抱えている。


 「本日はどのように致しましょう?」


「そうだな……」と唸りつつ、顧客のロボットは店内のショーウインドーに飾られた骨格を眺めながら、思案に耽る。


「とりあえず、基本的な型は前回のものと同じが良い。歩きやすかったし、シルエットも抜群だった」


「全長190cm、頭、胴、脚が1:3:4、でございましたね。横が——」


「ああ、横は今回、少し太目で行きたい。肉付きした際に、肩幅や胸囲がスーパーヒーローに見えるようにな」


「かしこまりました。そうなりますと、頭部も変更なさりますか?」


「変更が必要か?」


「スーパーヒーローのようになさる方は大抵、下顎骨を大きくなされます」


「強そうというか……なんだか旧人類みたくならんか?」


「滅相もございません、以前に作った鼻筋がキリっとされてますので、ヒーロー以外の何者にも見えませんよ。それとも、鼻骨も太目に?」


「あの鼻は気に入っているからイジりたくない。そうか、では顎を太目に頼む」


「かしこまりました。では、顎と肩甲部、胸郭を少しばかり拡張しておきます。色調はどうされますか?」


「いつものアイヴォリーで良い。色合いを気にするようなこともあるまい」


「さようでございますか。現在の流行として、銀色シルバーをお勧めしているのですが……顔の皮膚を半分だけ剥がして、瞳の奥を赤く光らせると、お相手の方々が手を叩いて喜ぶそうで。また決め台詞のアイルビ——」


「いや、今回は止めておく。下手へたに受けを狙って失敗するのがオチだ」


「承知しました。ちなみに、オプションの追加はいかがなされますか?骨にメッセージを刻印することができますが」


「なんだそれは。また何かの流行りか?」


「いえいえ、これはちょっとしたワン・ポイント・コーデです。お客様の骨に蛍光色で文字や絵を印すのです。皮膚の上からでもそれと読める程度に光るんですよ。当社では太古より伝わるチラリズムというものを採用し……」


「さっきも言ったが、骨を見せることは——」


「ご心配には及びません。ほんの少しの部位を見せるだけなのです。例えばですが、鎖骨に刻印するのが定番ですね。少し熱いな……などと仰っていただき、シャツの襟をめくって相手に鎖骨をチラリでございます」


 ロボットは顎に手を置き、うぅんと悩んでいる。店員はもう一押しとばかりに説明を続けた。


 「ご利用されたお客様には『I・LOVE・YOU』や『Memento mori』が人気ですが、ご自由にメッセージをお作り出来ることも可能ですよ!」


「それならば……」


 レーウェンは鎖骨にを刻むように注文した。


「ありがとうございます。それでは、こちらでしばらくお待ちを……」



 * * *



 骨は数分とかからず出来上がった。


 黒い棺のような入れ物が運ばれてきた。プシュウゥ……と音を立てて空気圧が抜かれると、観音開きに扉が開いて、注文通りの骨が目の前に現れた。


 「うむ」とロボットは頷き、それからプツンと電気回路が切れて、目の輝きの消失とともに頭をガクンと垂らした。


 ロボットの腕に抱えられていたポッドがカタカタと震えだす。

 その丸い頭頂部分がパカッと開いて、透明の液体が飛び出した。


 その液体は、今しがた出来上がったばかりの骨に飛び移ると、全身隅々まで包み込んでいった。


 そうして、五臓六腑を再現し、筋線維を紡ぎあげ、青い虹彩の眼球を生み出していく。


 最後に、乾燥防止のための保護膜が張られた。乳白色に色付けられている。


「私のポッドと、移動用ロボットを頼んだぞ」


 レーウェンは金髪のかつらを被りながら、店員に声をかける。


「お任せください。そちらはレーウェン様の基地ステーションまで届けさせていただきます」


 レーウェンが礼服を着込み、出入り口へと向かうと、

 

「お客様がお帰りだ!」


 そそくさと店内から店員たちが現れ、出入り口でレーウェンを丁寧に送り出す。


 接客をした店員が、

「ちなみに、本日はどちらまで?」と和やかに尋ねた。


「ああ、月の上でね。地球の人間とデートさ」


 そう言いながら、ニヤリとできたての歯を見せて、人間もどきは笑った。


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