第6話

鼻歌交じりにエントランスに入っていく彼の後ろ姿を見ていた


ドアロックを解除して一緒に中に入る。



そして、エレベータに乗って12階のボタンを押していた。



こんな当たり前の事なのに、私は彼のこんな姿を初めて見る。



「あの家では鍵かけなかったよね」


「ああ、あそこはかける必要ないからな。旅行に行ったあの時だけ」


「あそこは、みんなかけないよね。健の家なんて、『鍵穴はあるけど、鍵見た事ない』って真面目な顔して言ったことあって、みんなで凄く笑ったの覚えてる」



それを聞いて彼も笑う。


懐かしそうに外の景観を見ながら空に向かって指さした。



「ここから北東ほくとうだから、あっちの方だな」



少し高くなった夜景を見ながら指を指していた。


あっちの方に行くと、私がいる世界があるんだな。


ここと繋がっているんだ。

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