第2話 若者もこたつにはょゎぃ

 ダンドールの村人たちは、今日も氷のように冷たい風が吹き荒れる中、森の中で薪を集めていた。この国は魔王によって極寒の地に変えられ、燃料となる木材や食糧を求めて彷徨う日々が続いていた。凍てつく雪道を歩きながら、村人の一人、若い女性のユーナがふと立ち止まった。


「……あれ、あそこに何かある」


 彼女が指さした先、雪の中にぽつんと奇妙な物体が見えた。近づいてみると、それは見たこともない四角い家具のようなものだった。布団のようなものがかかっており、まるで誰かがそこに住んでいるかのようだ。


「なんだこれ……?」


 ユーナな仲間のアルスとキッパは恐る恐るその物体に近づいた。すると、中から微かに人の声が聞こえてくる。


「マサヒロ、あったかいねえ」

「ほかほかだよぅ」


 ユーナたちはぎょっとした。誰かがその中で話している――しかも、二つの声が聞こえる。一つは老婆の声、もう一つは少年の声だ。


「おい、誰かいるのか?」


 アルスが声をかけると、布団がガバッと持ち上がり、中から頭を出したのは、見知らぬ老婆だった。


「……あら、いらっしゃい!」


 老婆――紗和江は目をしばたたかせながら、目の前に立つ村人たちを見上げた。その隣からは、ふわふわとした猫も顔を出している。


「君たち誰だ?」


 ユーナたちはさらに驚いた。猫が喋っているのだ。


「おい、これは何だ? 魔物か? それとも魔王の仕業か?」


 キッパが薪を脇にかかえて身構える。


「魔物じゃないよ! 僕はただの猫、こたつで暖を取っていただけ!」

「こたつ……? なんだそれは?」


 村人たちは首を傾げた。彼らはこの極寒の地で「こたつ」というものを見たことがなかった。


「おこたはねぇ、あったかいよ。入ってみなさい」


 紗和江が布団をめくると、中からほんのりとした暖かさが漂い出した。それを感じた村人たちは、思わず顔を近づけた。


「なんだこれ……温かい……!」


 ユーナが恐る恐る手を差し入れると、その瞬間、彼女の凍えた手がじんわりと温まっていく。


「すごい……こんなに温かいものがあるなんて!」


「さあ、お入り。こんな寒い中で立ち話なんて、体が持たないわ」


 紗和江の言葉に促され、ユーナたちは次々とこたつに潜り込んだ。狭い空間にぎゅうぎゅう詰めになりながら、ユーナたちはその暖かさに感動していた。


「信じられない……まるで魔法みたい!」

「あったかい……気持ちいい……」

「この人たち、魔王の手先じゃないみたいだな」


 キッパがもぞもぞしながら付け加える。


「それにしても、こんなものを持っているなんて……一体あなたは何者なんですか?」


 ユーナの質問に、紗和江は困ったように笑った。


「私はただの普通のおばあちゃんよ。あ、こっちは猫のマサヒロ」

「普通のおばあちゃんが、こんなすごいものを持ってるわけないだろう!」


 キッパがツッコミをいれる。アルスがうんうんと頷いた。


「あの、神様とか名乗る人がねえ……私にこたつを出せって言うのよ」

「にわかに信じられんが……」

「でも、みんなが喜んでくれて良かったわ」


 ユーナたちは、紗和江のあたたかな言葉に顔を見合わせた。そして、彼女とマサヒロを連れ、村へと戻ることにした。


 村に到着すると、紗和江の持つ「こたつ」は大きな話題となった。村人たちは順番にこたつに入って暖を取り、その魔法のような温かさに感動した。


「これがあれば、この寒さにも耐えられる!」

「おばあさん、どうかこの村にいてください!」


 紗和江は最初こそ戸惑っていたが、村人たちの切実な願いを聞いて、しばらくこの村に留まることに決めた。

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勇者おばあちゃん(75)は極寒の異世界転移先でスキルこたつ召喚を使って無双する〜こたつは生物即落ち堕落製造機〜 アガタ @agtagt

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