第33話 鑑定結果はいかに?
夏休みが終わり昼より夜の方が長くなった頃、若葉ちゃんから呼び出しRINEが来た。
先日の若葉ちゃんのお母さんとの一件以来、正直、若葉ちゃんとのやり取りはかなり頻度が落ちている。若葉ちゃんによると、DNA鑑定で実の姉弟である事が判ったら大失恋確定でショックが大きい為、あまり私の事を考えない様にしているらしい。
なお今回の件は、木下家のプライベートに関わる問題でもあるので、私からミュウちゃんには報告していない。しかし、若葉ちゃんはその後、ミュウちゃんともたまに連絡を取り合っている様で、正直、どこまで話が伝わっているのか全く不透明だ。
若葉ちゃんと例の公園で待ち合わせをし、そのまま彼女の家に……あれ? 方向が違うぞ。
「若葉ちゃん。どこ行くの? 若葉ちゃんの家じゃないの?」
「うん。あそこはもう極力近寄らないんだ。あのおっさんがいるから……」
ああ、そう言う事か。父親の事を教えてもらう代わりに、お母さんの再婚話を了承するって言ってたっけ。でも家に帰らないって……どこ行くの?
「ほらここ。じゃじゃーん」そう言って若葉ちゃんが案内してくれたのは、元の家よりも駅に近い所にあるマンションの一室だった。
「私ね。先週からここで一人暮らし始めたの。もちろんお母さんも了解済みよ。私はあのおっさんと一緒にいたくないけど、お母さんはいっしょにいたい。だからこうしたの」
「へー。中学生で一人暮らしとか……なんかかっこいいね。でも食事とか洗濯とか大変そう」
「そんなの元々自分でやってたから。お母さん家事能力低いし。それにあのおっさん。お金だけは結構あるらしくて、お母さんが頼んだら一発でここを手配してくれたんだって」
「ははは……」
まあ、若葉ちゃんも自由度高くなるし、おっさんにしても難しい年頃の娘に気を遣わずに、若葉ちゃんのお母さんと新婚生活を満喫出来るって寸法で、Win-Winってやつか。
若葉ちゃんに案内され、リビングのテーブルに向かい合って座る。
「それで、大事なお話って……鑑定の事だよね?」
「そう。結果が来たの。ほらこれ。まだ開けてないし、ひとりじゃ怖くて開けられない」そう言いながら若葉ちゃんがA4封筒を取り出した。
若葉ちゃんのお母さんが、それで娘が安心するならと言う事で、DNA鑑定を申し込んでくれ、若葉ちゃんとそのお母さん。そして私が、自分の唾液をラボに送った。その鑑定結果がこの封筒に入っているって訳だな。
「お母さんには見せなくていいの?」
「あの人には関係ないでしょ。重要なのは、私とあなたの事よ。これでもし本当に姉弟だったら、必然的にあなたのお父さんも私のお母さんと浮気した事になるけどさ」
あちゃー。そうなったら大変だな。まあ私がそれを自分の母親にチクることはしないが。
「それじゃ、開けるね」若葉ちゃんが慎重に封書を開封する。中からは、A4サイズのレポート用紙が数枚出てきたが、重要なのは最後の三枚だ。
一枚目は、若葉ちゃんとそのお母さんの間での鑑定結果……血縁の可能性93%。
二枚目は、若葉ちゃんのお母さんと私の間での鑑定結果……血縁の可能性8%
うん、順当な結果だ。そしていよいよ三枚目。レポートをめくろうとする若葉ちゃんも極端に緊張しているのが分かった。
「えいっ!」気合を入れるかの様な掛け声とともに、若葉ちゃんがページをめくる。
私と若葉ちゃんの血縁の可能性……11%
「ありゃ。0%じゃないんだ」若葉ちゃんが不安そうに言う。
「いや若葉ちゃん。こっちの説明書に書いてあるよ。人間同士で全く0%は無いって。この数値なら十分血縁は否定されると思うよ」
「そ、そうか……そうなんだ……それじゃあ!?」
「うん。僕と若葉ちゃんの血は繋がっていない。だから……」
「あ、あっ……よかった。本当によかった。私……あき君と結婚していいんだ!」
「そ、そうだね……」
とりあえず若葉ちゃんの不安は払拭出来たのでよかったのだが……だとすると、私と若葉ちゃんには、ミュウちゃんの様な何らかの魂の血縁関係が? だがそうなるとそれをこれ以上追いかけるのは難しいだろう。どのくらい昔の所にどんなご先祖様がいて、それがどうやって私の世界から転移して来たとか、そんなの調べ様もない。
つまりは……もう若葉ちゃんとの血縁の謎の追求は終りにして、これからは合法的なマナ作成要員として彼女を囲い込める……もとい! 正しく彼女を愛してマナを……はあ。 ちょっと先走って考えすぎだよな。もっとちゃんと大人になってからにしないと。
「あ・き・く・ん!」
テーブルの向こうに座っていた若葉ちゃんが、艶っぽい声で私を呼んだ。
「えっ、何?」
「私、本当に安心しちゃったよ。あき君と姉弟じゃなくて本当にホッとした。これで、あなたとエッチして結婚して子供作るのも問題ないんだよね?」
「それはそうなんだけど……そう言ったお話はもう少し、お互いがオトナになってから……ねっ?」
「もう。つれないなー。この数か月間、私がどれだけ辛かったかなんて分かってないでしょ? もしあき君が実の弟だったらと思ったら、もう胸が張り裂けそうで……それでもあき君が恋しくてお布団の中で悶々として……でも……これで二人の仲を阻む障害はなくなったよね! だから、ちょっとだけ……ちょっとだけあき君をギューッてさせて!」そう言って若葉ちゃんがいきなり立ち上がり、私ににじり寄って来て、後ろから抱き着いて来た。
「うわっ、若葉ちゃんあぶないよ。僕、椅子ごと倒れちゃうよ」
「だったら私の部屋行こ。ベッドの上なら危なくないから。私もう止まんないよ」
そういって私の手を引っ張り始める。
「だめだって若葉ちゃん。僕、まだ小学生だし……」
「何よ、私だって中学生よ。大丈夫よ。だまっていれば分かんないって。それに最後までやるとは限らないわよ!」
「そうじゃなくてー」
さすがに私の貞操もここまでかと思った時、私のスマホが鳴動した。
「あっ、若葉ちゃん。ちょっと待って! ……お姉ちゃんからメッセージだ」
こういう時、ちゃんと待ってくれるのはさすがはZ世代未満だ。若葉ちゃんは私を引く手を緩め、さっさと内容を確認しろと促す。
「……えっ。何だって? お母さんが?」
「どうしたのあき君。お母さんがどうかしたの?」
若葉ちゃんが不思議そうな眼で私を見た。
「お母さんが……勤め先で倒れたって……」
「!? 大変……あき君。すぐに行ってあげなさい。残念だけど、この続きはまた今度でいいから」若葉ちゃんも心配そうにそう言ってくれた。
「あ、ありがとう若葉ちゃん。それはこの続きはまた今度……」
いや違うだろ私。続きはしちゃいけないんだって。
お母さんの容態が心配ではあるが、お陰で若葉ちゃんと一線を越える事は回避出来た。その後送られてきた姉からのメールに従い、私はお母さんが運ばれた病院を目指した。
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